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何が起こったのか。
小林さんは、ただ震えているしかない。
すると、カチャンという硬い音が鳴った。
窓の鍵が、ひとりでに開いたらしい。
カーテンの向こうで、窓がスーッと開く。
雨音が入り込み、強い風がカーテンを大きく揺らした。
”何か”が、侵入してくる。
そう感じ、絞り出すように悲鳴をあげようとしたときだ。
携帯が鳴った。父親からの着信らしい。
なぜか、それを合図にしたように、窓のあたりに感じていた気配が消えた。
不思議と震えが収まった小林さんは、携帯を耳にあてながら、おそるおそる窓際に近づいていった。
やはり、何もいない。
「ど、どうしたの?」
「ああ、間に合ったか!よかった……」
ほっと胸を撫で下ろすような父親の声。
「なんかさ、ヤバかったんだけど。塩とか、効かなくて。でも、今は大丈夫っぽい」
「そうか、安心したわ。いや、どうなることかと思ったけど、間に合ってよかった」
「間に合って、って、なにが?」
聞きながら、窓を閉める。
外の音が聞こえなくなったせいで、ふっと静かになる室内。
電話の向こうでも、父親は少しの間、沈黙した。
それから、噛みしめるようにして、
「身代わりをな、用意したんや。覚えてるか、Kっていう子」
Kは、小林さんの小学校時代の同級生であり、彼の遠い親戚の子でもあった。
「身代わりって……」
「もしものときのために、一族の子どもで同い年のKは、あらかじめ村に呼び戻しておいたんだ。通ってる大学が大阪だったから、すぐに帰ってこれた。
血がな、どうしても、つながってないとな。それで、な……」
それ以上、父親は詳しい話を聞かせてくれなかった。
ただ、小林さんの実家には今、身代わり地蔵が2つあるという。
彼は毎年、8月18日には、きちんと実家に帰っているそうだ。
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