岩の上の出会い

1/1
前へ
/18ページ
次へ

岩の上の出会い

今年も今日で3日目。 荻島(おきしま)行きのフェリーからの景色は、青い海にこの海鳥たちのみ。 でも.. 良い天気だ。 「今日、見れるといいな.... 」 お父さんが私に見せようとしていたものとは何なの? 『あれ』を見ることが出来ず、もう4年が経ってしまった。 『蒔絵、きっとお前は見ることが出来るはずだよ。また一緒に見に来ような』 (お父さんの嘘つき..『一緒に』って約束したのに.... ) せめて、『あれ』が本当にあることを知りたくて、私は今日もこの荻島に来た。 *** もういい加減この岩を渡り歩くのも慣れてしまった。 今では日傘を持ってこの岩までたどり着ける。 この場所から見る海はとても穏やかで光り輝いている。 もうすぐ正午。 『あれ』が現れるという午前が終わろうとする時、いつも思ってしまう。 『やっぱり、お父さんの.... 』 それでも、諦めきれずに私はまたこの岩に来てしまうんだ。 きっと、そうしないと.. 私にはもう何も残らない気がして.... 「君、凄いな。スカート、いやワンピースで、よくここまで渡ってきたね。おお、日傘まで」 「スカート? 」 「ごめん、驚かせないようにと思ったんだけど」 「 ....」 誰?ウエットスーツ。また漁協の人? それともナンパ? 「 ..何の用ですか? 」 どちらにせよ、この荻島の人なら.. 嫌だな。 あまり島の人とは関わりたくない。 「さっき海から君が見えたんだ。俺あそこにあるダイビングセンターの者だけど、オーナーがこれを君にって」 「ライフジャケット? 」 「この辺りは潮の流れもあって危ないんだ」 「そうですか.... でもいらないです」 さっき海に浮いていたダイビングのひとか.... でも、ごめんなさい。 もう構わないで立ち去ってほしい。 「 ..じゃ、ここに置いておくから」 「いらないから!もう放っておい— キャッ.. 」 「危ない! 」 なに? 海に落ちたの? 水のはじける音と鼻をつく痛み。 音はこもっていき、視界は.... もうわからない。 ===== 『まだあきらめる時じゃない。お前には進みたい道があるのだろう。それなら何度でも— 』 『蒔絵、ほら、良い眺めだろう。父さんはこの海が大好きなんだ。この場所は、父さんの特別な場所なんだ。おまえも、いつか— 』 『 蒔絵.. 蒔絵....  』 お父さん.. 私、もう.. わからないの.... ===== 誰?私の手を引っ張るのは..  お父さん? 「ほら、これにつかまって」 「ケホ ケホ ..ケホ 」 身体が うまく動かない.... 「さ、さむい 」 「ちょっと我慢して、俺があそこまで引っ張るから」 あんなに遠くまで.... 私を曳いて? 「ごめんなさい.. 」 「え? なにか言った? とにかくすぐ.... 着くから、ちょっとの辛抱だよ」 5月の海はまだ冷たく、私の体温を奪っていった。 腕の震えが止まらない。 でも、私はかじかむ手で必死にライフジャケットを掴んでいる。 虚ろになっていく意識の中、私を一生懸命に曳いていく背中が見える。 お、お父さん.. 『蒔絵、まだあきらめる時じゃないんだよ』
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加