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持ち帰ったのは....
辿り着いた場所はかなり足場が悪い。
石がゴロゴロしていて立つのも大変そう....
「手を貸そうか? 」
ダイバーさんは息を切らしている。
これ以上迷惑は..
「いいです。ひとりで立てるから」
強がったものの足に力が入らない。自分一人で立てるはずがなかった。それどころか、靴が片方脱げてしまったことにも気が付いていなかった。
素直になれない自分に憤りを感じてしまう....
私を長い距離曳いてくれて、立ち上がらせて、その上、ダイバーさんは靴がない私を『背負う』というのだ。
この100mはありそうな石の上を。
さすがにそこまでさせるわけにはいかない。
それにどこかに打ったのか肘を怪我しているみたいだ。
「大丈夫。私、歩いていける」
「無理だ。足を怪我するよ。いいから! 」
私を背負うダイバーさん。
かなりきつそうだ。
もうちょっとダイエットしとけばよかった....
彼は自分が辛いのにしきりに『もう大丈夫だよ』と明るい声をだしてくれる。
・・・・・・
足場が良いところに私を降ろすとさすがにくたびれた様子だった。
私が『大丈夫?』と声をかけると、彼はすぐに疲れた様子を隠した。
「君.. 寒いでしょ ....あそこにあるダイビングセンターに行くといいよ」
息を切らしながらも、私を気遣う一生懸命なその眼差しに、私は平静さを失い....礼を言わなかった..そしてその場を足早に立ち去ってしまった....
私って....
*
『荻島ダイビングセンター』
こぢんまりとした木造りの施設は落ち着きと温かさを感じる。
「あ、あの.... 」
「あっ! ま.. どうしたの!? ずぶ濡れじゃないか? 落ちたのかい? 」
「はい。 あっ、でもダイバーさんに助けてもらって.... 」
「まっ、話はあとだ。あっちにシャワールームがあるからお湯で温まるといいよ。服も何か用意しておくから! 」
・・・・・・
・・
「(ああ.. 温かいシャワーがこれほどありがたく思えるとは.... そういえば、あの時、お礼、言わなかった.. ちゃんと言わなきゃな.... )」
用意された大きなバスタオルで身体の水滴を拭きとっていると、ロビーから談笑が聞こえてきた。
ドアからそっと覗くとオーナーさん、女の人、それとさっきの彼もいた。
『はははは!——ろとも災難だったな—— 』
『笑わないで——でも、あの子何して—— 』
『あのね.. ——前くらい——、4日くらい ——の上に ——れで吉岡のおっちゃんが話しかけ—— 』
「「「ははははは!」」」
きっと私の事だ....
....この島の人達は また....
「そんなに人の噂話は楽しいですか!? だから嫌なんだ.. 私の事、よく知りもしないくせに! 」
「ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったの」
「 ..別にいいです、もう今更.. 」
「あのね、これ、私の古着だけどTシャツとスウェット持ってきたから、とりあえず着替えて。」
「 あ、ありがとう.... 」
私の着替えを持ってきてくれたんだ.. さっきのダイバーさんの事にしろ.... 私って....
—— え.. うそ.. タオルが落ちて.... 私の〇×▽□〇
「キャーーーーーッ」
最悪、最悪、嘘、嘘、最悪、 ..て、いうか見られた!
****
服を持ってきてくれた女性は琴子さんと言うらしい。
用意してくれた服を着ながら何度もタオルの事が頭をよぎる。
鼻血って、噓でしょ? 最低なんだけど....
****
着替え終わりロビーの椅子に腰を掛ける。
なんかタバコでも吸いたい気分だ!
「あ、あのさ.. 俺、見ていないから。ギリ大丈夫! タオルが抵抗なく落ちた時、ちゃんと目をそらしたから」
「『抵抗なく』落ちて悪かったですね!」
「あちゃー。ダメだよ。佑ちゃん。そんな具体的に説明しちゃ。だいたい鼻血まで出しちゃってるんだから、アウトだよ」
「これ、違いますよ。これは、たまたま.... 」
「(もう・・やめて。恥ずかしい!!)」
「ところで、あなた、えっと.. 毎年、岩の上で何やってるの? 」
「 !?」
「なんかびっくりしてるわ。まるで魔王が花摘みしているところを天使に見られてしまったような反応だわ! 」
「ちょっと、琴子さん」
「な、何で.. 知って....」
「『何で』って、あなたが、毎年あの岩に立ってるの、地元の漁師の間で有名だよ。『もうすぐ、あの子が来る季節だんねぇ....』ってまるで風物詩よ」
「え!?」
「ところでさ、佑ちゃん、それってやばいでしょ。 左腕、パンパンに腫れてるよ。今日は、もう帰って病院行きなよ。あとは私がやっておくからさ。それとあなた、佑ちゃんがこんなケガしてまで助けたんだから、名前くらいは言いなさい」
「あっ、 ..蒔絵....早坂蒔絵」
「早坂さん.... 町のひと?」
「 ..はい。でも父はこの島出身で.. 田宮です」
「え!? じゃ、あなた、もしかして次郎さんの? 」
「父のこと知っているんですか? 」
「うん、まぁね、こんな小さい村だからね」
「 ..そうですか」
「佑ちゃん、痛むの? 腕みせてごらん。包帯撒いてあげるから。じゃ、蒔絵ちゃん、あなたも手伝って」
・・・・・・・
「あ、あの.. 琴子さん、もっとやさしいタッチで.. 痛い」
「何言ってるの? 男の子でしょ。 ..ちょっと蒔ちゃん、その包帯押さえてて。紙テープ探してくるから」
「....あの ..足を滑らせて海に落ちたのはあなたに驚いたからだけど ....でも、ごめんなさい。あと助けてくれて.. その..ありがとう」
「やれやれ、なんかぎこちないけど、一応、お礼は言えたみたいだね。テープあったよ!」
「 ....」
「いたたた! 琴子さん、もっとやさしく扱って! 」
「情けないわね! ほら、ちゃんと腕上げなさい! ところで、佑ちゃんの帰りに蒔ちゃん、あなた付き添ってあげてね。いいよね? 」
「え? 何で? 」
「蒔ちゃん、いいよね!?」
琴子さんは少し怖くて.. 私は佑斗さんと一緒に帰ることになった。
でも、実際、やっぱりそれが筋のような気もした。
そんな事を考えながら港に向かっていると14:50発の吉美音行きのフェリーが警笛を鳴らす。
「あの! 船が出ちゃう。 荷物渡してください! 」
「大丈夫だよ。これくらいなら」
「..いいから! 全部持って行くから渡して!! 」
..また私って....こんな言い方を..何なのだろう....
****
フェリーから小さくなっていく荻島を見る、いつもは手ぶらだけど、今日は違う。
『佑ちゃん』っていうのか....このひと。
今、この瞬間に思い出した.... 私の顔がだんだんと熱くなる。
「ん? どうしたの? ま、蒔絵ちゃん? 」
「....私の服と..し、下着....忘れちゃったじゃない!」
そう、更衣室の脱水機の中に..忘れてしまった。
そして、恥ずかしさから、つい私はこの人を責めるような言い方をしてしまった。
私って、ダメだ....
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