照紅葉

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照紅葉

 夏休みが明けるとすぐに文化祭がある。今はそれぞれのクラスが放課後を利用して準備に忙しい。真面目で前向きな彩は今ではクラスの中心的存在だ。ことあるごとに友人に頼まれ事をされている。 「やっぱり彩が描いてよー!私無理」 「でも、私今日は買い出し行かないとー」 「お願いー!」 「おいおい、青海ばかりに押し付けるなー?みんなで決めたんだから、分担して、ね」  僕はつい、口出しをしてしまった。 「えー、でも、せんせー、彩がやったほうが早いし絶対間違いないんだもん」 「だからって、じゃあ買い出しは誰が行くの?」 「えー、私暑いのもやだー!」 「高橋、文化祭はみんなで協力しないと。な?」 「いいよ、めぐみ。それ貸して?私が軽く下書きするから、めぐみが上からサインペンで書いて、もえ達が色塗りしてくれる?」  彩は、折衷案を持ちかけた。 「あぁ、それならできそう!」  余計なお世話だったようだ。彩は、自分の場所をしっかりとわかっている。疎まれるような押し付けではなく、さらっと周りが円滑にまわるその方法がわかっている。僕はきっとあんな風に職員室で立ち回れない。 「青海、買い出しの車を出すから出る時職員室に来なさい」 「はい、ありがとうございます」 「さっきは、ありがとうございました」  買い出しに出た先のホームセンターで彩が話しかけてきた。 「いや、余計なことを言ってしまってすまなかった」 「いえ、頼まれると嬉しくなっちゃうから止めてくれて助かりました。買い出し、今日も来られないところでした」 「そうか、なら良かった?かな。そうだ、みんな頑張っているから、クラスに何か差し入れをしてあげましょう。何が良い?君たちが買い出ししてる間に買ってくるよ」 「本当ですか?えっとー、じゃあハンバーガーとポテトで!」 「わかりました。じゃあ買ってくるから、買い出し終わったらそこのベンチにいるように他のみんなにも伝えて」 「はい!」  教師生活で初めて、クラス全員に差し入れをした。三十八個ずつ、ハンバーガーとポテトを頼んだのも勿論人生で初めてだ。教室に帰りクラスみんなに差し入れを渡すと、彼女達はとても喜んだ。大人びて見えても可愛いものだ。いつだったか彩が学校で食べるアイスは特別だと言っていたが、きっとハンバーガーも教室で食べれば特別なのだろう。  クラスに混じってハンバーガーを頬張る彩は、どことなく幼く見える。入学当初の凛とした表情よりも、この様な楽しそうな彩をよく見る様になった。    
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