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桜花
文化祭、修学旅行、体育祭。文化祭準備ですっかり一致団結したクラスで参加する行事は、これまでにない充実感だった。生徒に関わり、クラスを造ることがこんなにも楽しいことは何年も忘れていた感覚だ。
こんな日々が毎日続いたらどんなにか良いだろう、そんなことを何度も思った。それでも、僕の年齢は確実に一つ増え、彩は高校三年生になった。
教科では顔を合わせるが、クラス担任ではなくなっので彼女と話すことも、ほとんどなくなった。時々彩が職員室にやって来る。ほとんどは担任への用事だが、たまに目が合うと笑顔を見せた。
秋になり、冬になり、三年生は自由登校になり、三月の上旬。
「先生、受かりました!私、第一志望合格しました!」
彩は担任ではなく、僕のところへやって来た。
「そうか!おめでとう、良く頑張ったな」
「はい、ありがとうございます。先生、いつもサポートしてくださり、ありがとうございました」
三年間、憧れの制服を着て、笑って、勉強して、汗をかいて、希望の大学に受かり、彼女の高校生活は、彼女自身が描いたその通りの青春だったに違いない。
そうして迎えた卒業式。最後の制服を着て彩は、友人達との別れを惜しみ泣き笑いしていた。
できるならこのまま生徒でいて欲しい。いや、早く大人になって欲しい。どっちだろう。でも、大人になったからって、、、彼女と僕の道はきっと交わらない。僕の気持ちを彼女に伝えることはこれからもない。
彼女と出会って、僕の毎日は色に満ちた。平坦な毎日に飲み込まれていた、無気力な僕にとって彼女は希望であり、彼女にとって教師でありたいと思うことが僕の支えであった。
ふと見せる幼さにも、悩める顔も、輝くような笑顔もその全てが僕の心を捉えていた。これは、たぶん、僕が初めて生徒を生徒以上に思ってしまった感情だ。でも。ただその思い出を僕の中に秘めておこう。これは、僕の君への約束だ。
卒業、おめでとう。
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