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手が触れ合ったそのとき
手が触れあったその時、なにかが変わる気配を感じたの。
それはまるで新しい春の風。
おろしたてのお洋服の匂い。
塗ったばかりのマニキュアのきらめき。
新しい自分になれる予感。ときめき。
恋のときめきも、キスの仕方も、なにもかも知らなかったあたしにあなたが教えてくれた、はじめての、恋。
――――――
「…はぁ」
そこまで打って、ふと手を止めた。
テーブルの上のグラスに手を伸ばす、カラン、という涼しげな氷の音。
外でずっとゲコゲコうるさい蛙の声とは正反対だ。
ここは日本の南国。
まだ梅雨にも入ってないというのに、夏真っ盛りかと疑いたくなるような暑さだ。
この暑さで頭がおかしくなって、梅雨の存在をすっかり忘れきってしまったんじゃないかとさえ思えてくる。
とはいえ、文明の賜のおかげであたしは今そんなうだるような暑さとは無縁にいるわけだけど。
「どうしたの、溜め息なんかついて」
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