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勇気のユウキ、と言われた時、僕はドキッとした。
ジャンボも、僕が意気地なしで皆から馬鹿にされてる事を知っているのだろうか‥‥。
「あのさ‥‥。」
僕が言いかけてやめると、ジャンボは相変わらず真顔で、まっすぐにこちらを見つめてきた。
「何?」
「あ、いや‥‥何でもない‥‥暑いね、本当。蝉がうるさくて嫌になってたんだよ。僕の独り言聞いてたよね?恥ずかしいなぁ、独り言を聞かれていたなんて‥!」
僕はヘラヘラ笑いながら喋った。
相変わらず、ジャンボは真顔だった。
「君はさ、自分の言いたい事を隠す義務でもあるの?何かを言いかけてやめている。でも本当は他に言いたいことがあるという事を気付いてもらいたいんだよね。だから、そんな中途半端な感じになる。」
僕はびっくりした。いや、まさにその通りなんだけど、ほとんど今まで話した事がない僕に、そんなに堂々と物が言えるなんて。
ジャンボの言葉はとても率直で、直球で、僕の心にミドルヒットした。
「よく分かったね。そう、僕本当は別の事を言おうとしてた。あのさ、プールの授業の時、僕どうしても怖くて飛び込めなくて、皆に笑われただろ?勇気って名前なのに勇気がないって。先生にまで笑われて。だから僕、今自分のこの名前がすごく恥ずかしいんだ。君が勇気のユウキって言うからさ、ちょっとドキッとしちゃって‥‥。」
またしてもジャンボは風を切る勢いで、言葉を返した。
「見てたよ。オイラは君を勇気のある人だと思った。
普通、あの雰囲気になると他の人は何も考えずに飛び込んじゃうんだ。雰囲気に流されるのは楽だからね。でも、考えてみなよ。飛び込んだ後どうするのか。
君は、明らかに水が怖いだろう。泳げないだろう。
飛び込んだところですごく危険だ。最悪、怪我をする可能性もある。だから、止める事が出来る方が勇気なんだ。」
その瞬間、夏のまばゆい光が、心地よい風が、美しい緑が、キラキラと輝きながら僕の目の中に入ってきた。
僕はまさかそんな事を言ってもらえると思わず、
嬉しくて涙が出そうになった。
「ありがとう‥‥そんな事言ってくれるなんて、君は優しいね。」
僕は顔を上げてお礼を言った。
ジャンボはやはり真顔だった。
「さぁ学校に行かなきゃね。オイラはギリギリに着くのが嫌いなんだ。じゃあ失礼するよ。」
そう言うと、ジャンボはキュッと靴を鳴らし、次の瞬間には全速力で道路を真っ直ぐに走って行った。
あっという間にジャンボの姿は小さくなった。
僕はそれをしばらくぼんやりと眺めていた。
「一人称オイラなんだ‥‥。」
そして僕も学校へ、少し小走りで向かった。
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