はじっこでララバイ

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僕が学校に着くと、ジャンボはもう席に座りウォークマンのイヤフォンを耳につけ何かを聴いていた。 僕も自分の席に座る。 「あ、来たぞあいつ。」 「ダッセェチビ。」 ヒソヒソと言っているつもりらしいが、全部聞こえている。 僕は悪口を言われる事に、いつまでも慣れる事が出来ない。 悪口を言われると、胸がザワザワする。心臓が、キュゥゥっと本来の大きさよりずっとずっと小さくなっていくのを感じる。 自分が本当に価値のない人間に思えてきて、悲しくて泣きたくなる。 やっぱり僕は弱虫だ。こういう奴らに言い返したり出来ないし、逆に仲良くなろうと立ち回れるようなお調子者でもない。もっと僕にコミュニケーション能力があれば、僕がもっと堂々としていて自分に自信が持てれば‥‥‥ 僕は悪口を言われても無視する事しか出来ない。 本当は悪口なんて言われたくない! 友達と楽しく学校生活を送りたいんだ! 上半期仲の良かった友人2人にも、僕のプール事件を機に、少しずつ距離を取られるようになってしまった。 「今お前、クラスのホットトピックだからさ‥‥。 俺らは、あんまり目立ちたくはないんだよね‥‥。」 そんな事を言われた。 ショックだったが、自分がいじめられない為にいじめられっ子とは距離を置く、というのは悲しき人間の心理だ。僕は受け止めた。 早く、終われ!この地獄のような日々! 毎日、僕は祈った。 人はいずれ飽きる生き物だ。 忍耐強く、待つしかない、その日を‥‥‥。 僕は廊下側の一番後ろの席、ジャンボは窓際の一番前の席だ。つまり対角線上にジャンボが見える。 ジャンボは窓から入ってくる風を浴び、太陽の日差しを浴び、なんだか神々しく見えた。 僕は朝の出来事を思い出し、プッと笑った。 唐突に走り出すし、おまけに物凄い足が速かった。 陸上部にでも入れば良い活躍をしそうだし、バスケ部だってこれくらいの長身の奴は欲しいはずだ。 しかし、ジャンボは何部にも属していなかった。 それからの日々、僕はジャンボをよく観察した。 ジャンボは身長も大きいが、顔も縦に長かった。 おまけに角刈りで、中学生の割には大人びた顔をしている。 ジャンボは誰ともつるんでいなかった。教室で、いつも一人で過ごしている。 たまにジャンボ!と話し掛けられているし、嫌われている様子はない。 友好的ではあるが、特定の誰かと一緒にいる事はなかった。 授業中、突然立ち上がり、先生に対して抗議したり論破したりする事があった。 ジャンボはいつも、なるほど確かに、というような部分を突くので、先生達をも困惑させる程だ。 納得出来ないと、いつまで授業を中断させる。 先生達からしたら迷惑だろう‥‥。 皆はそれを見ていて、「あ〜‥‥まぁジャンボだもんな〜。」と、何となく認めているような感じだった。
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