はじっこでララバイ

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僕は学校から帰宅後、家でジャンボから借りたCDを取り出した。 笑った黒人の子ども達が写っているCD、砂漠と夜空に浮かぶ月が写ったCD、ジャングルのような風景が写ったCD、などなど。いずれもどこの国のものかよく分からなかった。英語で書かれたものもあれば、アラビア語のような文字のものもあった。 これはレゲエかな?これは電子音楽っぽいな。これはクラシックのような曲調だ、とか、僕は何と無く感覚でジャンル分けしてみたが、正解など勿論分からなかった。 リズム、テンポの良い明るい曲調のものもあれば、ゆったりしたオルゴールのような音色のものもあった。 これらの音楽を理解出来るようになる為には、何回も繰り返し聴く必要がある。たった一回聴いただけで良い悪いなど判断する事は出来ないし、それはジャンボに失礼だと思った。 僕は土日の間、何度も何度もジャンボから借りたCDを聴いて過ごした。 そして僕は特に一つ、とても気に入ったものに出会えた。 そのCDにはアフリカ系の黒人の親子が写っており、背景はピンク色だった。 母親が優しい微笑みを浮かべ、赤ん坊を抱いている。 そのCDは5曲入っていたが、どれもとても心地よいメロディーだ。 ゆったりしていて優しい女の人の声。 聴いている側に囁きかけているような、問いかけているような、微笑んでくれているような、そんな雰囲気を感じる。 寝る前にこの音楽を聴くと、自分が小さい子どもに戻り、母の手の中に包み込まれているかのように安心した気持ちになる。 自分の中の、どこからかゆっくりと力が湧いてくるのを感じる。温かくて、優しい気持ちになる。 僕は、この音楽を好きだと思った。 日本語ではないので歌詞は理解できないのだが、それなのに、この曲は自分の味方をしてくれているのだという気持ちになれた。 週明け、学校で早速ジャンボに感想を伝えた。 「ジャンボCDありがとう。全部聴いたよ。日本語じゃないから歌詞は理解できなかったけど、どれも僕にとって新しいジャンルで良かった。その中でもさ、特にこれが気に入った!」 「ああ、これ。」 ジャンボはそのCDを大切そうに手に取り、小さく微笑んだ。 「これは、アフリカの子守歌だよ。」 「子守歌?」 「そう、母親が赤ん坊を寝かしつける時に歌う、あの子守歌さ。」 確かに、言われてみればそれは子守歌としか思えなくなった。 強くて優しくておおらかで繊細で、愛に溢れている、母親の歌だ。 「これ、子守歌だったんだね。でもさ、ジャンボはどうしてこれ聞こうと思ったの?どうやって出会うの?」 「まあ、たまたまYouTubeで見つけたんだよ。こういう音楽を愛し、載せる人がいる。インターネットの世界はすごいよな。この世の片隅で起こっている事を全国の人が知る事が出来る。全くの人事ではないと気付かせてくれる。」 そう言い、ジャンボは遠い国に想いを馳せているのか、遠い目をした。 「子守歌って、英語でlullabyって言うんだ。」 「ララバイ。」 「ああ。ラテン語とヘブライ語から来てる。神があなたと共にいますように、とか、悪霊よ去れって意味とかあるんだけど、まあ詳しくは自分で調べてくれ。 ララバイって言葉、オイラ好きなんだよ。なんか、良くない?ララバイ。」 ジャンボがララバイと繰り返すから、僕もララバイと呟いてみた。 ララバイ、ララバイ…。 「ははっ確かに、僕も気に入ったよ。うん、なんかいい。」 呪文のように、二人でララバイと呟いた。 教室の端っこで、僕らはララバイと言い合って笑った。
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