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わたくしは昔、悪役令嬢と呼ばれていた。
今でも影では悪役令嬢と呼ばれている。何故かというとエリック王子との婚約解消の要因になったアリシアーナ嬢が広めたからだ。アリシアーナ嬢は自分が乙女げーむなる物の主人公ーーヒロインだと普段から言っていたらしい。そしてエリック王子を攻略対象者と言い、婚約者たるわたくしを悪役令嬢だと学園の生徒達に言い広めていた。そのためにわたくしは将来の王太子妃への道を閉ざされ、エリック王子の婚約者である立場を無くした。今でもアリシアーナ嬢には良い感情を持てないでいたが。
わたくしがどん底に陥った時に救いの手を差し伸べたのが今の旦那様ーー夫だ。
名をラウル・ラルフローレンという。元は現国王陛下の弟君で第三王子だった方だ。臣籍降下してラルフローレン公爵家の養子になられている。
淡い水色の瞳に黄金の髪、端正な美男子といえる容貌。ただ、性格は穏やかであるのに。わたくしが絡むと冷徹で腹黒くなる。そこは直してほしい所といえた。
今日もそんな旦那様に蕩けるような笑顔で愛を囁かれて抱かれていたー。
「…ふ、ああ!!」
また、甘い声をあげてしまう。ラウル様の指がわたくしの敏感な胸の先端を弾く。
「ふふ。また締まったね」
ラウル様の逸物が埋められた秘所はきゅっと言葉通りに締まった。ゆっくりと腰を動かす。ぐちゅぐちゅと淫靡な水音が部屋に響いた。今は夜中だ。それでも眠れない一夜になりそうだった。
花芽にも触れられて頭が真っ白になった。淡い水色の瞳が濃さを増した。ラウル様は普段では瞳の色は変わらない。だが、情交の最中では濃い青に変わる。
何故かはわからないが。これは情交をするわたくしにしかわからなかった。本人も気づいてはいるだろう。
そんな風に考えていたらラウル様の不穏な声がした。
「シェリア。他の事を考えているだなんて余裕だね。激しくしないと駄目かな?」
逸物が引き抜かれてまた激しく奥まで貫かれた。ぎしぎしとベッドが悲鳴をあげる。
「あっ、あ。あああー!!」
絶頂がまた来た。何も考えられなくなる。ラウル様が激しいキスをしてきた。それに応えるために舌を絡めた。くちゅくちゅとした水音と繋がる部分の水音と。ベッドの軋む音だけが夜闇に響いていたのだった。
はっと目が覚めた。隣には眠る夫ーラウル様がいた。すうすうと寝息を立てている。
わたくしは自分の体を抱きしめた。何ともイヤラしい夢である。何でこんな時に見るのか。そろりとベッドから降りた。絨毯の敷かれた床の上でへたり込んだ。濡れているのが否が応でもわかる。場所といったらあそこしかない。
わたくしは自分に呆れた。ラウル様との初夜やその後の夜は激しかった。その時の事が忘れられない。あんな事やこんな事をやってみたい。そんな欲求のせいでムラムラしている。
仕方なく、一人で浴室に向かう。とりあえず、冷たい水で火照った体を冷やそうか。そう考えながら脱衣場に着く。ドアを閉めてネグリジェを脱いだ。
(ああ。やっぱりね)
ほうとため息をつく。紐パンを脱ぐと愛液のせいで糸を引いた。ぐっしょりと言っていい程になっている。こんなところはラウル様に見られたくない。
全裸になるとタオルを持って浴室に入る。シャワーに近づく。蛇口を捻り冷たい水を出した。全身に掛けるとすうと手や足先が冷えて気分が落ち着いてきた。
「…ふう」
髪も濡らした。ぬるま湯に調節してから腰まである髪を丁寧に洗う。水量を少なめにしてシャンプーを小瓶から出して洗髪する。ざっと洗い、泡を濯いだ。
リンスもしてからもう一度流した。体も石鹸で洗ってしまう。全身を洗い清めると気分はすっきりした。
体に付いた泡も綺麗に流してしまってからシャワーのお湯を止めた。蛇口のきゅっと閉まる音がする。タオルを手に取って髪や体の水気を拭き取った。
そうしてから脱衣場に出た。だが、そこには寝ていたはずの夫の姿があった。
少し眉間に皺を寄せて不機嫌そうだ。ラウル様はタオルしか巻いていないわたくしを見て余計に不機嫌になった。
「こんな夜中に何をしているんだい?」
低い声で問われた。わたくしは背筋が寒くなるのがわかった。
「…何をと言われましても。入浴をしていたのですけど」
「シェリア。入浴していたと言われてもね。昨日の夜、つまりはつい数時間前にだが。浴室を使っていたじゃないか」
「そうですね」
わたくしは頷いた。言われてみれば、そうだった。けど、言えない。
えっちな夢を見て体が火照ったのでとは。そんな事を言ってみなさいな。墓穴を掘るだけだ。
別の意味で恥ずかしい。仕方なく謝って早く服を着てしまおうと思い立つ。
「ごめんなさい。ラウル様、今後はしませんから。それよりも服を着ていいでしょうか。さすがに湯冷めをすると体に良くありませんし」
「それはいいけど。後でじっくり訳は聞かせてもらうから。覚悟しておいて」
ラウル様はいい笑顔で言う。そのまま、わたくしを置いて脱衣場を出て行ったのだった。
新しいネグリジェを着てわたくしは寝室に戻る。ラウル様は寝ずに待っていた。
「シェリア。さっきの事だが」
「はい。何でしょう?」
「…もしやとは思うけど。君、何か夢を見た?」
えっと耳を疑う。
「夢ですか。あの。いたす夢は見たような…」
「ああ。やっぱりだ」
ラウル様はやってしまったという表情でため息をつく。
「どうかなさいましたか?」
「シェリア。たぶん、それは魔力酔いだ。私も同じような夢を見た」
魔力酔いと聞いてわたくしはもしやと思う。
「わたくし、そういえば。聞いた事があります。魔力ー霊力が強い者にも相性があって。相性のいい者の魔力に触れると酔ってしまう時があると」
「そう。まさしくそれだ。シェリアと私の魔力は相性がいい。シェリア、今は体調はどうかな?」
「…その。わたくし、月の穢れの前になると気分が高まりやすくて。最近は特にその傾向が強いです」
渋々言うとラウル様が顔を薄っすらと赤くする。
「そうか。言いにくい事を言わせてしまったね。じゃあ、寝ようか」
はいと言ってわたくしはブランケットにくるまる。ラウル様も横になって瞼を閉じた。そのまま、深い眠りについたのだったー。
翌朝、わたくしは下腹部に鈍い痛みを感じた。ラウル様は王城に出掛けていていない。もしやと思い、厠に急いだ。
着ていたワンピースなどには血が付いていなかったのでほっとする。慌ててメイアを呼んだ。
「どうなさいましたか。奥様?」
「その。月のものが来てね」
「ああ。もうそんな時期が来ていましたか。急いで準備をしますね」
メイアは納得顏で手早く月のものの用品を持って手当てをしてくれた。わたくしも自分で出来るのだが。メイアはいいですからと言ってやらせてくれない。
分厚い紙を芯にして作った布製のナプキンや棒に綿を巻いたタンポンが月のものの用品だ。さらに血が付いても落ちやすい素材で作られたショーツが主流であったりする。
わたくしはショーツを履いて布製のナプキンを当ててもらう。頭痛と腹痛が今は秋に近いので酷かったりする。メイアは汚れた紐パンなどを洗ってきてくれた。その後、ラルフローレン公爵家の侍女でわたくし付きになったメリッサが月のものの諸症状に効くらしいハーブティーを持ってきてくれる。
「奥様。ハーブティーを持ってきました」
「ありがとう。メリッサも気が効くわね」
「そんな事はありませんわ。メイアさんには負けます」
そう言いながらメリッサは笑う。暗めの赤髪に濃い茶色の瞳だが性格は明るい。
メリッサはころころと笑いつつもわたくしにハーブティーを飲むように勧めた。カップを持って口に含んだ。ほのかな苦味があるが慣れているので飲み込む。
一杯目を飲み終えるとメリッサから寝室に行くように言われた。
「奥様。月のものが重いと聞いております。今日はゆっくりと休まれてはいかがでしょう?」
「わかった。じゃあ、早速寝るわね」
「はい。お休みなさいませ」
メリッサに見送られながら寝室に向かったのだった。
あれから、わたくしは頭痛などに悩まされながらも月のものが終わるのを待った。一週間が経ってやっと終わる。正直、長かった。
ラウル様もこの期間は情交を無しにしてくれていた。おかげで助かった。
「シェリア。もう大丈夫かな?」
カウチに座りながら問われた。
「あ、ええ。大丈夫です」
慌てて答えた。ラウル様は苦笑する。
「すまない。ちょっと気になってね」
「月のものは終わりましたし。今日からしばらくはその。夜の営みも大丈夫です」
照れながら言うとラウル様も顔を逸らした。
「そうか。魔力酔いはいきなりだし。シェリアみたいに女性の場合、そういう時は影響を受けやすいのかもしれないね」
「かもしれませんわね」
頷くとラウル様はわたくしに近づいた。頬を親指で撫でられる。優しい行為に嬉しくなった。
「ラウル様。好き、大好きです」
「え。シェリア?」
わたくしは立ち上がるとラウル様の首に腕を回した。つま先立ちで腕を絡めると頬に軽くキスをした。
「……まいったな」
ラウル様は耳や目元を薄っすらと赤くした。初秋の日差しが照る中でわたくしとラウル様は情熱的な深いキスをしたのだった。
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