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けれども、やっぱりサムのしでかしたことを許すことはできない。アイツがジェイムスや仲間たちを死に追いやったと思うとはらわたが煮え繰り返りそうになる。ベッドに潜り込んでも眠れない。ベッドサイドに置いたドッグタグが、薄目を開けるたび視界に入ってきて鬱陶しい。ずっと微睡みの中でもがいていた。
そんな中、また夢を見た。燃えるような赤色とチョコレートのように甘い茶色が目の前で揺らめく。水面に写っているようにはっきり像を結ばない。
でもなぜだかわかった。ジェイムスだ。サムとはやはり声も雰囲気も違う。懐かしさにたまらなくなって、必死に名前を呼びながら手を伸ばす。ジェイムスも手を伸ばし何か言っている。指先がもう少しで届きそうだ。その時、ジェイムスが呟く。
『俺の分まで……』
――――目が覚めた。
窓から朝日が差し込んでいるが、まだ目が熱くて滲んで見える。とうとう、手も言葉も届かなかった。
でも、俺は腕を目一杯伸ばして確かに何かを握りしめていた。ゆっくりと手を開くと、それはチカリと朝日を照り返し光の矢を放つ。ジェイムスのドッグタグが、まだここにいるぞとでも言うように、俺の手の中で銀色に光っていた。
本当に、それでいいのか?
返事なんて返ってくるはずないのに、ドッグタグを見ながらジェイムスに語りかける。ジェイムスが良くても、俺は無理だ。サムにムカついてしょうがない。
でも、なによりムカついたのは、サムを許せない自分に苛ついていることだった。俺が、ほんのちょっとでもサムを許してやりたいと思っていることだった。そして、もう一度会いたいと考えている。ああ、本当に腹が立つ。
殺してくれと懇願するサムの声がリフレインする。懺悔室でもないのに全部俺の前でぶち撒けたのは、きっと俺を怒らせるためだ。俺がそんな切れっ早いヤツに見えたのか? だがお望み通りにしてやろうじゃないか。
俺は、サムを殺すことにした。今日でサミュエル・カーネフィディーレの人生を終わらせてやる。
ーーーーーーーーー
朝の歓楽街は眠りについたばかりでしんとしていた。くたびれた顔をした娼婦たちとたまにすれ違う。
ある飲み屋の前で足を止めた。マフィアが借金のカタにぶんどった店で資金洗浄に使われている。シチリア系マフィアのお家芸だ。俺に殺され損なったサムが行きそうなところといえばここしか思いつかなかった。店長のカミさんに絶対に入るなと言われていたが無視してドアハンドルを押す。当然鍵が掛かっていた。ぶっ壊す勢いでガタガタと揺らし、蹴破ろうと少し離れると
「もう閉店だ。帰りな」
坊主頭で開襟シャツを着た、いかにもなギャングが顔を出した。
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