ハッピー・サンクス・ビギンズデー

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✳︎✳︎✳︎   目が覚めると、俺はマルチカムの迷彩服を着た連中に囲まれて、トラックの荷台で揺られているところだった。腕の中にはマークスマン・ライフルがあって、足元を見れば軍用ブーツを履いていた。  見たことある光景だ。デジャヴというやつだ。そして、これが夢だって気づいたのは、 「おい、早いとこブーツに捩じ込め」 とドッグタグを手にした、赤毛に茶色い目を持つ青年が話しかけてきたからだ。  これがジェイムスとの出会いだった。俺はジェイムスにならって、編み上げブーツの紐の部分にドッグタグを差し込んだ。  ドッグタグは二対ある。戦死した国に渡す分と祖国に持ち帰る分だ。これで戦死者を記録する。あとは、首から下げるものとは別にブーツにも入れることで、頭が吹っ飛ばされても個人を特定できる。  俺はジェイムスを見た。ヤツはそのへんのティーンみたいな顔立ちのくせに、顔つきは戦士のそれだった。腹を決めた男の顔だ。  心臓の鼓動が大きく、速くなってくる。たしかに、俺はゲイだ。でもこんな会ったばかりのヤツに、なんて思いたくなかった。胸の高鳴りは、きっと初陣に向かうからに違いないとライフルを握り直した。 ✳︎✳︎✳︎   ブラインドの隙間から光が差し込む。眩しさに目を開けると、ジェイムスに似た男はベッドにいなかった。 毎日のように戦場の夢を見る。あの男も夢だったのだろうかと部屋を見渡すが、朝日がワンルームの部屋のおんぼろ具合を嫌味なほど照らしているだけだった。  でも、床に脱ぎっぱなしの服は消えていた。耳をすませばシャワーの音が聞こえる。バスルームのドアを開け放てば 「おはようハニー」 と素っ裸のヤツが不敵な笑みを浮かべた。 「お前は誰だ」 と言えば 「やっぱりバレてたか。それにしては情熱的だったね」 と肩をすくめる。 「今すぐ出てこい。誰がシャワー代を払うと思ってんだ」 「わかったよ、あと一分待ってくれ」  ヤツはその十倍の時間をかけて出てきやがった。おまけにトランクス一枚の姿で。 「随分豪勢なブランチだね」  昨日のターキーレッグが丸々残っていたから食ってやった。コイツの分はもちろんない。 「それで」 「ん?」 「俺に何の用だ。なぜジェイムスのドッグタグを持っている」 「好きな子とセックスするのに理由がいるかい?」  FUCK! と叫び出したくなるのを堪えた。 「ずっと綺麗な子だと思っていたんだ。本当だよ」  ガキの頃から嫌というほど聞いた賛辞だ。小さな顔がかわいいとか、うねりのある黒髪と長い睫毛と切れ長の目がエキゾチックだとか、緑色の瞳が神秘的だとか、マニュアルでもあるのかと聞きたくなるくらい言われてきた。軍にいた頃は多少なりとも筋肉で覆われていたが、今となっては薄っぺらい肉付きになっちまった。職場でもナメた客に絡まれる。  そんなことより気に入らねえのは、コイツがジェイムスみてえな顔で、ジェイムスみてえな優しい目で俺を見つめてくることだ。やっぱりジェイムスにとてもよく似ている。でもどこか違う。うまく言えないけど。 「ジェイムスから君のことは聞いている」 「ジェイムスに会ったのか?! どこで」 「決まってるじゃあないか」  君もA国に行ったんだろう? とヤツは表情を固くする。A国だって? まさか 「君とオレは初対面じゃないはずだ」
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