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二ツ目
あれは、そう。ある夏の夜のことだ。
あの頃の私は運動会のリレーで使うピストルのような破裂音が苦手だった。焼きそばを手早く調理するため開封する時の音もそうだ。お祭りの屋台や自宅で遭遇する。あと、ポン菓子を作る音も。
だから打ち上げ花火なんて、もってのほかだ。あんな大きな声で吼える怪物の、どこがいいのか全く分からなかった。
そんな私だから「花火」とは、手持ちでしかない。何かの拍子に煙を吸ってしまうと、目が潤むまで咳き込む羽目になるから、少し厄介ではあったけれど、音は小さく、とても明るいところが好きだ。
決まって最後になる線香花火は物悲しさが、いかにも日本っぽい。三本一緒に持って火種を大きくすれば、途中で落ちないのではないかとチャレンジしてみるけれど、これがなかなか、うまくいかないもので。手を動かさないようにしながら、固唾を飲んで見守っているあの時間も好きだ。
ところが、夏休みに親戚が祖父母の家に集合する時には、叔父が子ども達のために豪華な花火を用意してくれる。いつも見ている薄い袋ではなく円柱のビニール袋だ。私はこっそり顔をしかめていた。
吼える奴がいる。いやむしろ…吼える奴しかいない!叔父が着火する度に、私は耳を塞ぐ。手筒花火なのか打ち上げ花火なのか、暗くて判別できないし、少しせっかちな性格の叔父は手当り次第に火を着けていくから気が気ではないのだ。
シュッ!
鮮やかな光が流れ星の如く暗闇を駆け抜けたと思ったら、何かがフワフワと落ちてきた。
気球…?
「おっ!落下傘だったか!」
叔父は浮遊物を見つめている。
「ラッカさん?誰?」
私が首を傾げると拾ってきて「ほれ」と手に乗せてくれた。
「パラシュートだよ」
「何この箱!開けていい!?」
興奮する私を見て叔父は「何も入ってないぞ」と笑っている。小さな傘に、小さな箱。空からの贈り物のようでワクワクした。吼える花火もたまには悪くない、と思った瞬間だった。
余談だけれど、初めて見た時、これはいつまで伸びるのだろうと、ヘビ花火にも興奮したなぁ。今後レギュラー出演させてほしいと母に頼むと、渋々了承してくれた。
母は名前も言いたくないほど極端に蛇が苦手で、緑色のホースも避けたいらしい。
「青にして?緑はあれそっくりじゃない!」
…そう…?なのか?例のあの人――ヴォルデモート卿に怯える魔女そのものじゃないか。おかしいな。魔法は習得していないはずだけど…?
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