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その病はあっという間に広まった。
かかっても、咳が出るわけでも、高熱が出るわけでも、関節が痛くなるわけでも、ない。
かかってしまった人は…嘘がつけなくなる。
この病に感染しているかどうかは、鼻を見ればわかる。
いつもより、鼻が高くなるのだ。
それだけの症状が、およそ一週間続く。その後は特に後遺症もなく、鼻の高さも戻り、普通の生活を送ることができる。
大した事ない、そう思うかもしれない。命が奪われるわけではないのだから。しかし、この病によって国が一つ滅んだ。その国の王様が感染したのだ。
彼の演説からは「国民のために…。」という枕詞が消えた。
私利私欲にまみれた野望が露になり、暴動が起きた。未だに事態は収束していない。
日本の総理大臣も変わった。
新しい総理大臣はみんなから厚い信頼を得ていた。
なぜなら、彼女は例の病にかかっているさなか、テレビ放送で演説をしたのだ。
鼻の高くなった彼女は、国民の生活が第一だと力強く言った。
嘘をつくことのできない病に冒されながらのスピーチ。これ以上信頼できるものはない。
スピーチからおよそ一週間後、首相官邸の執務室に一人になった彼女は、一人ほくそ笑む。
特殊メイクの付け鼻をぺりぺりと取り、シュレッダーで細かく砕いた。
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