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カーテンの向こう側が未だ薄闇に包まれている中、パッと目を覚ました美咲。現実と夢の狭間を彷徨いながら、久々に幼い頃の夢を見たことに戸惑う。
――きっと今日、美玖の初めての運動会だからこんな夢を見たんだ。
隣で寝息を立てている夫を起こさないようにベッドからそっと身を起こす。寝室のある二階から忍び足で階段を下り、まだ眠りから覚めていない顔を洗面所でサッと洗う。
キッチンカウンターに畳んで置いてあるエプロンをつけ、カップボードに立て掛けている付箋まみれのレシピ本を手に取った。唐揚げの作り方が載っているページを開くと、「この2倍生姜を入れるとさらに美味!」「隠し味に白だしを入れても◎」と書いてある馴染みの付箋が覗く。
母から受け継いだこのレシピ本には、幼い頃から食べて来た大好きな料理がたくさん載っている。その中でも、この唐揚げは何度食べても絶品だし、付箋に書いてある母のアドバイス通りに作ると尚美味しくなる。
三歳になった娘の美玖と交わした「運動会のお弁当に唐揚げを入れる」という約束。幼い頃、私と母が交わした運動会の約束と全く一緒で思わず笑ってしまう。
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