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「はい、」
「やあ、調査頑張ってる?」
「頑張ってますよ。とりあえず今日の事件の場所は絞れそうです」
23箇所の今と昔の現場をまわり、帰路につこうとしたときの着信。知らない電話番号からの電話なんてもう大体あのカミサマなわけで。雇い主よろしく進捗を確認してくるから思わず軽めに報告してしまって、通話したまま頭を抱えた。向こうもそれに気付いたらしく可笑しそうに笑っている。
「変なところ律儀だね君は」
「ほっといてください。で、まさか状況確認ってだけじゃないですよね?」
「話が早いね。君がいいなら、僕の信者で体が自慢なのを一人貸そうかなと思って」
当初と変わった意見を訝しんで聞く。
「信者使うの嫌だったんじゃないですか?」
「信者だけでやらせるとさ、絶対争いになっちゃうから。信仰が対立してるわけだからね。君がいればそう荒事にせず納めてくれるんじゃないかって。でも、もし荒事になってしまったら、君一人じゃ不安じゃないか?」
なるほど、確かに交渉がうまくいかず、その場で対立するとなったら、一般人とカルティストの戦いになるわけだ。私は非力なほうだし、足が速くて逃げるのに自信があるわけでもない。ましてや不可思議な魔術チックなことなんてできない。戦力としては不足だろう。
「お断りします」
「一応聞いておくよ。なんで?」
「貴方の信者と知り合いになったらそれこそそっち側に足踏み入れちゃいそうじゃないですか。勧誘お断りです」
「つれないなぁ」
他にも理由はあるがわざわざ言うこともないだろう。
「もし気が変わったら昨日の友達申請許可してよ。連絡取ろう?」
「嫌です。なるべくそうならないよう頑張ります」
「冷たい……わかったよ、頑張ってね。ああ、寂しいなぁ……」
そんな言葉を最後に通話が切れる。一瞬やりすぎたかと思ってしまう辺りまだ私は甘い。あれは同情を誘っているだけなんだから騙されちゃいけない。
回るかどうか迷ったが、最終的に23箇所回りきってよかった。今日の事件が浜宇都神経病院跡地で間違いないだろうという確信が得られたのだ。23箇所全ての場所は、浜宇都川の近く、もしくは浜宇都川からの用水路や小川が流れている。病院跡地は高架線のトンネル近くで浜宇都川の堤防沿いにある。
家に一度帰って夕食をとりつつ、今日もう一度出掛けることと少し遅くなるかもしれないことを両親に伝えると酷く心配された。今まで夜遊び的なことを全くしてこなかったのが悔やまれる。
「ど、どこ行くの?」
「先輩と飲みに町まで。5人くらいいるし大丈夫だよ。火の玉が出るのも浜宇都の方でしょ。反対側だもん、心配ないよ」
ごめんなさい。目的地浜宇都です。飲みに行くのも嘘です。先輩なんていません。一人です。
「七時半頃になったら行くよ」
「町までなら送るぞ、大丈夫か?」
うちの親はどうにも心配性だし過保護だ。逆方向位置する町側に送られたら絶対間に合わなくなる!
「大丈夫、飲めない人がいるから、その人の車に先輩と乗るんだ。待ち合わせしてるし平気だよ」
念のための言い訳を用意しておいて本当に良かった。お酒の量も考えて飲むし、日付変わるまでには帰れるようにするから、と付け加えればなんとか安心させることができたらしい。
「気をつけて、暖かくしていってね」
「うん、ありがとう」
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