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「けど、結局この先に何があるかっていうのはノートに書かれてなかったんだ」
「そうか、それで君は高祖父様のしようとしたことを辿っているんだね」
「ああ、本当に火の霊を召喚できたってところで信憑性は増したからな」
ワインを美味しそうに飲む顔はだいぶ赤くなっていた。良くも悪くも、この男は本当に純粋で単純なのだろう。高祖父への憧れと未知への好奇心で、現実離れした事象に首を突っ込んでしまった。
この先に待つものがなにかも知らず。
ふにゃふにゃと笑う男に取り分けた二切れ目のピザを渡してやりつつ、私は決めた。
「この儀式で捧げるのは、魔法の炎であればそれでいいんだな?」
「ん、おう。高祖父は手段のひとつとして火の霊を選んだってだけらしい」
一つ息を吸って、言う。
「明日の儀式、私に炎を捧げさせてくれないか」
「あいつ大丈夫かな」
少し飲ませ過ぎた。最終的に千鳥足になった男を家までタクシーで送り、鍵を開けて玄関に転がり込んだところまでは見送った。男の話していた通り、古い日本風の大きな家だった。暗くてよく見えなかったが、母家の後ろに覗いた屋根が話の蔵なのだろう。
「今日の話を忘れてなきゃいいけど」
忘れていたとしてももう一度説明するだけだが、なるべく話が簡単に済んだ方がいい。明日21時半にまた会おう、とメモを男のカバンに入れておいたし、おそらく会うだけなら大丈夫だとは思うのだが。玄関に引っくり返った男を思い出す。自分が何をしているかわかっていないにしても能天気な笑顔だった。
交渉の結果から言えば、私が明日の儀式を――火を捧げることになった。しかしもちろん私は魔術じみたものは出来ないし、するつもりもない。私がやろうと考えたのはこの儀式の破壊。つまり明日、”魔法の火を捧げさせない”ことだ。少し肌寒い夜の空気から逃れるようにベッドに入る。
燃焼した証拠がなるべく残らないもの。そして、明日中に揃えられて設置できる素材、構造。暗闇の中でならいろいろ誤魔化しも効く。スイッチは? 火の出る時間は短くていい。あの男が見ている前で派手に燃えて、消えるならそれで問題ない。むしろそうでなくては火に近づかれて仕組みがばれる恐れがある。
今日は疲れた。体も頭も結構働かせた気がする。心地よい酒の眠気に目を閉じた。明日が勝負。騙しきれれば私の勝ちだ。
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