火の玉事件と夜な夜な怪奇

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 眉間にシワが寄るのを感じながら窓に歩みよりカーテンを開けた。そこには文化会館で見た、あの人間の男の形をした人でないものがいた。相変わらずその顔を私の目も脳も読み取れない。窓を開ける。 「やっと開けてくれたね」 「入るなら靴を脱いで虫が入らないよう急いで」 「あ、はい」  向こうの言葉に被せぎみに言い放ち、もぞもぞ靴を脱ぎ出したのをよそに溜め息をついた。 「幸せ逃げるよ」 「誰がつかせてると」 「私かな」 「その口で、いや貴方に口があるのかよくわからないけど、良く言う」 「え?見えない? おかしいなぁ、他の人間には魅惑の唇が見えるはずなんだけど。 私のことは皆誰もが振り向く美青年に見えてるはずだよ?」  ちゃんと見て?というようにずい、と顔を寄せられる。顔ごと目をそらす。 「せっかくのサービスシーンを無駄に?」 「私には貴方の顔がどう見ても人間の顔として処理できないんですよ」 「じゃあどう見えてるんだい?」 「なんとも形容しがたいです」  人の顔があるべき部分に私が見るのは、テレビの砂嵐のようにランダムに動く肌や目や唇の色のうねりであり、立体にも平面にも見える混沌だ。どう見ても正常には見えない。普通の人が見る景色と私の見る景色が違うなら、もしかして私の方が正常ではないのかもしれないが。それだというのに、頭はそれを美しいと認識してしまっている。恐らく美しいと思わせる催眠じみたものの効果にはかかっているが、人を装った化け物であるというのは見抜けてしまっているという中途半端な状態なのだろう。 「で、凡人の部屋に一体何の用で。一週間も窓に張り付いて何がしたかったんです。人の家に入るくらい訳ないんじゃないですか」  自分でも驚くくらいつっけんどんな声が出る。目の前のうねりを流し目で睨むとそれは肩を竦めた。 「できるけどあんまりやると見せつけみたいで嫌なんだよ。 頼みがあるからに決まってるじゃないか」 「信者にでも頼めばいいじゃないですか」 「やだよ。信者が死んじゃったら勿体ない」  死ぬような案件を頼もうとしているとは思えないダジャレ混じりにそいつが言う。私は更に眉間のしわを深くした。
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