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「そんな案件、」
「内容も聞かずに跳ね退けるなんて真似しないでよ。ね、『火の玉事件』って知ってるよね。それを起こしてる悪い子を止めてほしいんだ」
「警察が動いてるでしょうが。そのうち」
「捕まりっこないよ、彼らのやり方じゃ証拠が証拠じゃなくなっちゃうんだから。科学ばっかりに頼ろうとするのが今の人類の悪いところさ」
例えばこの間の出来事、警察に処理出来たと思う?と言われてしまえば、私は口を閉ざす他なくなってしまった。廃屋、黒い神殿、炎の目。いまだにあの恐怖は鮮明だ。
「今回の、放っておいたら前の脅し文句より恐ろしいことになるけど」
「それを止めさせてなんのメリットが貴方にある」
「いろいろあるよ。ただの大量虐殺がつまらないだとか、そいつがとてつもなく苦手だとか」
あまりにも物騒すぎる言葉が聞こえて耳を疑う。
「大量虐殺?」
「そうだよ。今回悪い子が召喚しようとしてるのはとてつもないエネルギーをもった存在なんだ。
この街一つ焼け野原にするのは訳ないだろうし、そうなったら君が守りたいものもすべて真っ黒焦げだね」
から、と笑うが声に前のような覇気を感じない。
「本当にそいつが苦手ってわけだ」
「だって私ごと私も信者も毎度燃やそうとするんだ」
「怨みでも買ってるんじゃないですか」
「そうだろうね」
自分でやればいいじゃないか、と言いたいが様子を見るに半分諦めるくらいにはその相手が苦手らしい。もしかしてその相手を知ればこの理不尽な存在との縁を遠ざけることができるんじゃないだろうかという考えが脳裏にちらつく。
「ちょっと今やなこと考えてない?」
「いや、別に」
「あっ目を逸らした!いけないんだ!嘘つき!」
「それが嫌なら信者にでも頼めばいいじゃないですか」
「それが嫌だから頼みに来たんじゃないか!
というかあいつを崇拝するようなトチ狂ったやつうちの信者の手に負えるもんか!」
「そんなもん一般人の手なら余計に余る!」
言い放つとわざとらしくショックを受けたように床にへたりこむ。
「ああ……前の時はあんなに怯えて素直だったのに、君は一体どうしてしまったんだ」
「人間死んだと思うと強くなって這い上がるんですよ」
ふん、と鼻を鳴らすと、ふらふらと立ち上がった。
「ああ……もうだめだ」
急なことで反応が遅れて、がっちり両腕を捕まれる。
「もうだめなら……今少しくらいいい思いをしてもいいよね?」
あ、不味い。あの時と似た威圧感。どうも煽りすぎたらしい。
「君はとっても美味しそうだ」
弱肉強食的な意味なのは言われるまでもなく理解している。せっかく拾った命を食い散らかされるのは嫌で、そうなるともう、答えなど一つしかない。
「止めればいいんですねわかりました」
「君のこと好きだよ!」
嬉しそうに声を上げたそれに返す言葉も無くて溜め息を飲み込んだ。
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