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「ぐふっ」
思わず口に含んだドリンクを吐き出してしまう。
「あ、どうされました? 大尉」
「シーガー大尉大丈夫ですか?」
周りにいた女性達が驚きながら寄り添ってくる。
「あ、いや、大丈夫です。ちょっと変な器官に入りました。少し外で休憩して来ます」
「私が付き添いましょうか?」
「あら、それなら私の部屋で休みますか?」
女性達は胸の空いたドレスを強調するかの様に屈みながら更に寄り添って来る。
「あ、大丈夫です。すぐに戻りますから」
そう言ってなんとかその場を離れたフェリクスが先程セシルがいた所に視線をやるともう既にセシルの姿はそこには無かった。
ひとまずパーティー会場を出たフェリクスは必死に思考を巡らせる。
『まずい、あの目は絶対に誤解されている。どうすればいい? いや、まず何よりセシルとの関係を考えたらどう弁明するべきだ? 別に特別な関係という訳でもないし』
考えれば考える程、混乱してくる頭をどうにか落ち着ける為にフェリクスは少し離れたバルコニーへと足を運んだ。
バルコニーに着いたフェリクスは手すりに寄り掛かりながら煙草に火をつける。一口吸い込むと次は煙と共に大きく息を吐いた。煙草の煙と香りが包み込む。普段は意図的に控えている煙草だが考え事で煮詰まったり、ストレスがピークに達するとつい吸ってしまうのだ。
「ふ~ん煙草吸うんだ」
突然後ろからした声に驚き振り返るとそこには明らかに不機嫌そうな顔をしたセシルが腕を組んで立っていた。
「あ、セシル。ちょっと探して……」
「先程は綺麗な女性達に囲まれて凄く楽しそうでしたね大尉殿」
フェリクスの言葉を遮るようにセシルが口元を引きつらせながらにこやかに言ってくる。その笑顔が逆に恐怖なのは言うまでもない。
「いやあれは違うんだ」
「何が違うの? 部屋にまで誘われてさぁ。感触どうだった? ごめんね、私あんなに強調出来る程無くてさ!!」
「違う、それは誤解で……」
「へぇ五回も!! 凄いね! それは何? 自慢ですか?」
フェリクスが何か口にしようとすると矢継ぎ早に言葉を投げかけられ、言葉に窮してしまう。
「な、何言ってるんだよ?」
普段、気の強いセシルだがフェリクスに対しては優しく出来るだけ穏やかに接してきた。しかし先程の場面を目にし感情の抑えがきかなくなっていた。
「……ひょっとしたらパーティーにも参加してるかも、とか思ってドレスアップして探してみたら誰かさん女に囲まれながら胸押し当てられてニヤニヤと楽しそうにしてるんだよ? 私の気分良いと思う!? 何? 私には文句言う権利もない訳!?」
先程までの少し拗ねた様な皮肉めいた口調から変わって少し核心に迫る様な問い掛けにフェリクスは思わず言葉が出なかった。それは先程自分でも頭をよぎった『特別な関係でもない』という事に繋がる。
「……セシル、あの……」
「……何よ?」
結局フェリクスは言葉が出て来なかった。セシルが捲し立てたり、言葉を遮ってきたりしなくても肝心な言葉は出て来ない。
『もどかしい!』
セシルだけでなくフェリクスもそう思った。わかってはいる。少し沈黙が続いた後、ようやくフェリクスが口を開く。
「セシル。パーティーの後、二人で会えないか? 話したい事がある」
「今じゃ駄目なの?」
「今じゃ時間が足りないかもしれないし……俺の中で整理もしたい」
「……わかった。特別に待ってあげる」
そう言うとセシルはつかつかとフェリクスの方へと歩み寄って来る。
「ねぇ、前一緒にいた時は煙草吸ってなかったよね? なんで?」
すぐ目の前までやって来て少し不満そうに問い掛けられ、フェリクスは少し戸惑っていた。
「いや、出来るだけ吸わないようにはしてるんだが、考え事してる時とかストレス感じた時なんかについ手が出るんだ」
「そっか。まさか私との関係がストレスとかじゃないよね?」
「いや、そんな訳ないだろ!」
目の前まで来て、満面の笑みでの問い掛けにフェリクスは即座に否定する。
「ふふ、だよね。我儘かもしれないけど私といる時はあまり吸わないでね。じゃないと……煙草の味がするからさ」
そう言ってセシルはフェリクスの首に手を回すと、スっと踵を上げ顔を向ける。
少し驚いたがふらつくセシルの背中を支える様にフェリクスが手を回すと二人は唇を重ねた。
「……ほら、煙草の味がした。ごめんね、私が抱きついてもさっきみたいな感触はないよね?」
抱きつきながらセシルが自らの唇を指で拭って微笑みかけてくる。普段幼くみえるセシルだが、この時は妖艶さを感じられた。
「いやでもセシルの魅力には誰も敵わないよ」
「ふふ、当たり前じゃない。ねぇ、今日はもう煙草吸っちゃ駄目だからね。じゃあ先に戻っとくから」
最後はいつも通りの悪戯っぽい笑みを見せ、セシルは去って行った。
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