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アプリを閉じる前に部屋全体をぐるりと見てからと、画面を何度か切り替えた裕菜は、先ほどまで飛び跳ねていたペペがチョコンとソファーに座り、ベランダに続く大きな窓へ顔を向けている姿を見た。
ジッ──と薄いレースのカーテン越しに窓外を眺めている。部屋はマンションの7階──カーテンが開いていても、遠くに小高い山が見えるだけ、遮る建物も無く退屈な風景だ。
(猫には何かが見えるのかしら……)
裕菜の胸にクスり──と笑いが起こり、早く帰って抱き締めたいと愛しさを思った。その時、もう一匹の先住猫のチャオがタタタ──と画面に入って来て、ペペの隣に並び同じように窓外に顔を向けた。
そうして並ぶと、小さいと思っていた仔猫のぺぺが、尚のこと小さく見えて、猫好きには堪らない何とも可愛らしい構図なもので、裕菜は暫し見惚れてしまった。
(いけない、いけない。キリが無いや──)
胸に呟きアプリを閉じようと指先を向けた。その一瞬、レースのカーテン越しに窓外を何かが過ぎった。何かが窓の外で落ちたのだ。その時は鳥か、上の階の洗濯物でも落下したんだろうくらいにしか思わず、アプリを閉じて裕菜はスマホをしまった。
* * *
早く帰りたいと願う時ほど残業になるものなのか、短い内線電話一本で、長時間の残業を強いられ、裕菜が職場を出たのは夜更けと言った時刻になってしまい、翌日のシフトが昼からの遅番なのが幸いと、帰宅途中にファミレスへ寄り、疲れた身体を休め、軽く晩酌してからコンビニで簡単な夜食を買い家路へ着いた。
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