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サンダルの持ち主
一夜明けて出勤前、裕菜は件のサンダルを手に上の階を訪ねた。
インターホンで呼ぶも留守のようで、そこへ置いて帰ろうかと思うも、サンダルがこの部屋から落ちて来た確証も無いので、『もし、違ってたら、気味悪いよね』と、管理人室へ預けることにした。
管理人室を覗くとそこに管理人の姿は無く、エントランスを出た処でモップ掛けに勤しむ初老の女性の姿が有った。『いつもご苦労様です』の挨拶を向けて声を掛けると、管理人は暖かい笑顔で裕菜を振り向いた。
手にしたサンダルを掲げて見せて、自分の部屋の上の階から落ちて来たのでは無いか? と伝えると、管理人の顔が見る見る蒼褪めた。
「──ご存知で無かったですか……」
との言葉に続けて管理人が昨日このマンションで転落事故が起きたこと、ベランダから転落して亡くなったのが、裕菜の部屋の真上の住人だと言うことを教えてくれた。
(昨日エレベータで会ったあの男が転落した……ってこと?)
落下の際、脱げたものが、裕菜の部屋のベランダに飛び込んだのだろうか。
管理人の顔を呆然と見詰めた裕菜は、寒気を覚えてブルり──と身を震わせた。サンダルは管理人に委ね、裕菜は勤務先へ向かった。
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