暗 い 声

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暗 い 声

 食事休憩の際、見守りカメラを開き愛猫の姿を眺めていた裕菜は、昨日見た、窓の外を落ちて行った黒い影があの男だったのか? と思い当たりゾッ──とてしまった。『昨日』としか聞かなかったので、違うかも知れないが……    見守りカメラの録画を遡り、昨日のあの時間を探した。  無邪気に跳ね回っていた仔猫と、へそ天で爆睡していた猫が、何かに気を惹かれたように揃ってジッと目を向けたベランダの窓。突如過ぎった怪しい黒い影──ベランダに飛び込んだのだろうサンダルは確認出来なかったが──。   「嫌だ、なんか気持ち悪いわね……」  思わず呟いた裕菜は、録画を消去してしまおうと、選択してボタンを押したが、間違って再生ボタンに触れてしてしまったようだ。すると何かの音を拾っていたことに気付いた。消去する前に確認だけして置こうと、ボリュームを最大限に上げて再生してみた。  部屋の時計が秒針を刻む音が微かに聞えた。通りを行くバイクだろうか? 軽やかなエンジン音が響く……窓へ駆け寄ったチャオが低い声で『ミヤォウ』と鳴いた。真似るようにペペも窓を見詰めて『ミャー』と鳴いた。  猫たちは、何かを感じたのだろうか……。 ──二、三秒沈黙が流れた──  そして……が曳いたとでも言うような声──『おぅ』とも『わぁ』とも聞こえる男の声に被せるような暗い女の声……。    それは極めて不明瞭だが、裕菜の耳には確かに『死んで』と聞こえた──      ✿お わ り✿
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