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二
昔から、気味の悪い子供だと、嫌厭されていた。
黒い瞳に黒い髪、血が通っていないのではないかと思わせるほどの青白い肌、整った目鼻立ち、生まれつき不自由な左足をひきずって歩く姿に、親以外の親戚縁類はみな、僕を「やれ幽霊のようだ、鬼のようだ」と勝手なことを言っていた。
前にも、こんな扱いを受けていた気もするのだが、それがいつだったのかまでは、思いだせない。しかし、妙なことにそうして扱われることに、なんら悲しみも、怒りも、湧いてこなかった。たしかに僕は鬼なのかもしれない。それと言うのも、親戚が僕を怖がる様を見るのが面白くて、さまざまな悪戯をしていたからだ。
目の前で悪口を言っていた叔父の背中に、「黄色い服を着た女が立っている」と、食事の席で言った。すると、それはどうやら叔父の愛人だったようで、妻と散々もめたあげく、離婚にまで発展してしまったらしい。もう滅多なことを口にしてはいけない、とばあさんに叱られたが、適当にうなずいて、すぐに忘れた。
ある日、その叔父の息子が僕に復讐しようと、バッドを持って家を訪ねてきた。その日は夏祭りで、人が出払っていたため、家には僕一人しかいなかった。おそらく、ねらって来たのだろう。
玄関に出る前に、台所に置いてあった、粉末のとうがらしを持って、出て行った。その息子が、バッドを振り下ろす瞬間、両目に向かって、とうがらしを投げつけた。息子は痛みに泣いて、叫んで、散々転がりまわったあげく、庭の池に落っこちて溺れた。
その姿を見ても、助けようなどとは考えなかった。彼がそのまま死んでも、かまわないとさえ、思っていた。息子の泣いた顔を見ながら、笑い転げていたが、それも長くは続かなかった。幸か不幸か、祭りから帰って来ていた叔母が、息子の悲鳴を聞きつけ、庭先に姿を現した。僕は、まずい、と早々にその場から逃げた。
しかし、後で叱られることはなかった。その息子が、何があったかを、かたくなに話そうとしなかったからだ。それは、そうだろう。会食の席で、僕の笑みを見るたびに、顔を青くして、席を外すほどなのだから。おもしろ半分に、その理由を聞いてみると、意外にも僕が怖いと言うより、僕の身の回りで起こることのほうが怖い、と言うことだった。意味がわからず、しばらく考えていたが、またすぐに忘れてしまった。
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