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 言い逃れようのない指摘を受け、じっと黙り込んだままの俺に、ジャックが「ぽつり」と語りかけた。 「別に君を責めたり、罪に問おうってわけでない。ただこれも、探偵業としての性というかね。『真実』は、出来るだけ明らかにしておきたい。マイケル君、君が『奴ら』の依頼を受けて、今回の参加者の『過去』を調べ。そして、奴らに報告したんだね……?」  俺はただ黙って、「こくり」と頷いた。さすが、キャシーが「奴らの側の人間」だと見破っただけのことはある。俺のことも、しっかりお見通しだったわけだ……。  ――俺はハッカーとしての実力を認められると共に、それが「知れ渡る」ことには危機感を抱いていた。知れ渡るということは、つまり俺のやっている「仕事」が広く拡散されていくということだからだ。凄腕のハッカーなどと呼ばれていても、所詮は「裏稼業」なのだ。その情報が拡散されていくことは、気分的に嬉しくはあっても、安全度から言えば決していいことばかりじゃない。 「表の顔」として俳優業なんてのをやってたのも、裏稼業に精を出してる奴が、まさか「人前に顔を出す仕事」などやらないだろうという、いわば人々の盲点を突いた選択だった。売れっ子にでもなればまた別だろうが、売れない役者の世界というのは、ある意味「閉じられた世界」でもある。世間との関りは、役者としての収入だけではやっていけないので、生計を立てるためにするバイトの時間のみという奴も多い。  俺はハッカーとして稼いだ金が十分にあるので、もちろんバイトなどをすることはなく。更に、世に出たいとか有名になりたいとか、ガツガツと役を取りに行く意欲も、その必要もなく。裏の顔を隠すのにはもってこいの職業だと考えていた。  しかし、予想以上に俺の裏稼業の腕前が評価されたことで、このままだといつかはバレるかもという、嫌な予感を覚えるようになった。だから俺は、少しの間「冷却期間」を置こうかと考えた。情報操作などの仕事は一時的に休止し、ほとぼりが冷めるのを待つつもりだった。
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