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 もう本当に、時間がない。それはここにいる4人全員がわかっていた。かくいう俺も、手や足の先がしびれるような感覚を覚え始めていた。これで呼吸が苦しくなったら、錠剤を飲み込めるかどうかわからない。すぐに、「どちらか」を決めなければ……! 「あ、青で間違いないんじゃない? もう時間ないわよ、とりあえず飲んでみる? 毒を選んで死んじゃうのも、どちらか迷ってこのまま死んじゃうのも、同じでしょ?」  キャシーは自分の持っている、青い錠剤の入ったビニール袋を開け、今にもそれをつまんで飲み込もうかという勢いだ。確かに、迷ったあげくに「どちらも選ばずに死ぬ」のが一番馬鹿らしい。一か八か、どちらかを飲むという賭けに出るしかない時間に差し掛かって来ている。 「いや、ちょっと待て。赤が危ない確率が高いように思えるが、何かが引っかかるんだ。その何かに気付ければ……」  ジャックはキャシーの行動を押し留めようとそう言ったが、キャシーはもう、青の錠剤を飲む気満々だった。 「あ、あたしもほら、手が震え出してるの。喋るのもだんだんツラくなってきた。喋れなくなったら、こうやって話しあうことも出来ないでしょ? もう、飲んでみるしかないのよ!!」  キャシーが差し出した手は、見てすぐにわかるほどプルプルと震えていた。それは「死への恐怖」もあるかもしれないが、その手のひらに青い錠剤を乗せて、キャシーは必死に訴えていた。 「いいわね、飲むわよ?! もう、耐えられない!!」  キャシーがそう叫んで、錠剤を乗せた手を口元に近付けようとした時。その手を、マリオが「ぐっ」と掴んだ。 「キャシーさんが、そんな危険な真似をする必要はありません。僕が飲みます」  マリオはそう言って、キャシーの手のひらから錠剤を奪い取った。 「おい、マリオ。何を……?!」  俺のその言葉を遮るように、マリオは語り出した。 「ここまで来たらもう、隠す必要はないですね。僕はここに、『死ぬため』に来たんです。だから、もしこれが毒だとしても、悔いはないんです」
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