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 マリオの言葉を聞いて、全員が「ええっ?!」と驚きの声をあげた。マリオは錠剤を口に近付けながら、淡々と語り始めた。 「僕がこの錠剤を飲めば、どちらが解毒剤かすぐにわかります。だからみんな、どちらかを飲む用意をしておいて下さい。皆さんも最初に僕を見て、オタクっぽい奴だなあって思ったでしょ? その通り、子供の頃から根っからのゲーム好き、根っからのオタクでした。友達も出来ず、女の子にもモテず。家でゲームをしている時だけが、生きている実感を得られる唯一の時間でした。  で、そういう奴に限って、オンラインのゲーム上では偉そうに振舞ったりするんですが、それが炎上しちゃうともう対処出来ない。ビビっちゃって、反論できないんです。そうやって僕は、オンライン上でも居場所を無くし……それでも、『違う自分』になりたいと思って役者とか始めてみたんですけどね、回って来る役どころは今回みたいに、見た目の地を生かしたオタクな配役ばかりで、いじめられ役、世間から弾かれた役、そんな世間に恨みを抱く役……結局、役の上でも『自分は、自分でしかない』ことを思い知らされただけでした。  それで僕は心底絶望して、課金ゲームに有り金つぎこんだり自暴自棄な生活を送っているうちに、この撮影のことを知ったんです。そして、裏で何やら怪しいウワサが流れていることも。もしそれが本当なら、僕はここで『死ねる』ことになる。自分の好きな『ゲームの世界』で死ねるなんて、本望でしかないですよ。  だから僕は、ここで『毒』を選んで死ぬことになっても、これっぽっちも悔いはないんです。それに……皆さんと一緒にここまでのLEVELをクリアした、あの感じ、あの雰囲気は。僕がこれまでずっと、求めていて手に入らなかった、『他者との時間の共有』でした。こんなことを言ったらなんですが、皆さんと共有したこれまでの時間が、僕には楽しかった。だから、ジョニーさんやサマンサさんがあんなことになっても、ゲームの続行を希望したんですが……そんな時間を死ぬ前に味わえただけでも、幸せ者です。加えて、僕が死ぬことで皆さんが助かるなら、こんな光栄なことはありません。死ぬ間際に、誰かの役に立てた。命を救えた。それだけで、『救われた』想いです……」
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