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それまでに稼いだ金で生活に困るようなことはなかったので、地道に俳優業を続けながら、冷却期間をやり過ごそうと思っていたのだが。同時に、そんな地道な毎日が、次第に味気ないものに感じられるようになっていった。巧妙に、そして幾重にも仕組まれたパスワードなどの防壁を破り、その痕跡を残さぬよう細心の注意を払いながら、情報を奪い取る。そんなスリリングな時間が急になくなってしまい、俺は明らかに「物足りなさ」を感じていた。
そんな時に、「奴ら」からの依頼が来た。指定した人物の裏情報を探りだし、報告して欲しいという依頼だ。その情報は決して表に出すことはなく、「自分たちだけ」で処理するために使用するのだという。スリルな瞬間に飢えていた俺は、掘り出した情報を世間に晒すのならまだしも、「内部だけで処理する」のなら危険度は少ないはずだと判断し、その依頼を受けることにした。実を言えば、そういった裏の情報網にアクセスするだけで危険は生じるのだが、この時の俺は「それはともかく」と自分を納得させ、再びあの「スリリングな時間」を味わうことを優先させた。
こうして俺はジャックの言ったように、指定された人物――ジョニーを始め、サマンサやマリオの過去を探り、奴らに報告した。それで俺の仕事は「完了」したのだが、俺は何か気になって、依頼を受けた3人の「共通点」を探ることにした。3人とも売れない役者で、それぞれに「人に言えない過去」を抱えている。恐らく「奴ら」は何かの目的があって、そんな情報を収集しているのではないか。俺はジョニーたちの使っているPCなどに侵入し、そして3人共に、この「撮影」に参加する予定になっていることを知った。
この、一般公募をしていない「秘密裡の撮影」に、隠された過去を持った役者たちを集めたのには、何か裏がある。そう確信した俺は、それとなくその秘密を探ろうとしたのだが、奴らの方がそれに気付いた。ジャックが探偵として撮影の裏を探ろうとしていた時と同じだ。奴らもしていたことがことだけに、それなりの警戒心を抱いてたってことだろう。
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