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 ジャックはそう言って、俺に向かって「じゃあな、凄腕ハッカー君」と手を振り、くるりと背中を向けた。俺はその背中に向かって、この場から立ち去るのを引き留めるかのように、話しかけた。 「そう言いながら、ジャックさん。あんたはこれからも、『ヤバい方』へと突っ込んでいくんだろ……?」  ジャックは俺の方を振り返り、「ニヤリ」と笑った。 「ああ……それが、俺の性分だからな。むやみに真似したりするなよ、青年」  そこで俺はもうひと言、ジャックに声をかけた。 「結局ここまで、ジャックとしかあんたを呼べなかったけど。最後に、名前だけでも教えてくれないか……?」  俺の問いかけを受けて、ジャックは顔だけでなく、体全体で俺の方に向き直り。少し考えてから、「いや……それはやめておこう」と答えた。 「ここを出たら、俺たちは撮影に参加する前と同じ、『赤の他人同士』だ。君もそう言ってたろう? ならば最後まで、それを貫こう。もしこの先、俺に手助けして欲しいようなことがあれば、そうだな……通常では理解しがたい事件や、超常現象に詳しい探偵とかいうワードで検索すれば、案外すぐにヒットするかもしれん。俺の方も、いつか君に助けてもらうことがあるかもしれないからな。お互いの自己紹介は、それまで『お預け』にしておこう」  ジャックはそう言い残して、もう一度「じゃあな」と軽く手を振り、俺の前から去って行った。自己紹介は、次に会う時まで「お預け」か……。それはきっと、いつかまた会おうっていう意味を込めた、ジャック独特の別れの挨拶かもしれないな……。  俺はそんな深い感慨を胸に、「ジャックと呼んでいた男」の背中が、森の中に遠ざかっていくのを、ただじっと見送っていた。
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