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「で、誰だっけ。ふゆちゃん?」
「そう。小学生の頃一緒だったじゃん。途中で転校したけど」
夏帆と友だちになったのは小学1年生のとき。入学したての机の並び。安、と安田で前後になった私たちは、名前に季節が入っていることもあり仲良くなった。
その、もうふたむかしも前を思い起こしてみるけど、なんとなーく、そんな子がいたなぁ、くらいしか思い出せない。
「ごめん。思い出せないや。で、その子がどうかした?」
またやってきたジョッキを持ち冷えたビールを流し込み尋ねる。
「ん〜? ちょっと思い出しただけ。それよりさ……」
夏帆はタバコの吸殻を灰皿に放り込むと身を乗り出した。
「今日呼んだのは、ちょっと頼みたいことがあって」
呼んだもなにも、私たちは2週間に一回くらいの割合で会っている。今日も普段通りのストレス発散のつもりだった。
「な、なに? ちょっと怖いんだけど?」
引き気味に答えると夏帆は頬杖をついてニッコリ笑う。
「怖くないって。ほら、ちょっといいホテルでお食事なんてどうかな? って」
「夏帆の奢り?」
夏帆は残っていたカルピスサワーをグビッと飲み干すと、ずいっとこちらに顔を寄せる。
「私より凄い人が奢ってくれるから!」
私より凄い人……? こう見えて社長令嬢の夏帆より凄い人なんて、心当たりはない。
その夏帆は笑顔で言った。
「その代わりにお見合い行ってくんない?」
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