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有名ラグジュアリーホテルの超高級ディナー。それに釣られてないと言えば嘘になる。一度は味わってみたいと思っていた一人数万円のコースなら尚更。
それと引き換えにだされた条件が、お見合いの替え玉、だった。
「大丈夫大丈夫! 私が行くより千春が行くほうがよっぽど社長令嬢に見えるでしょ!」
笑い飛ばしている夏帆に、『全くその通り』とは言えず黙ったまま溜め息を吐く。
「どーしてもってパパに言われたんだけどさ。全く気乗りしないし、彼氏に悪いでしょ」
何人目かもう覚えていないその彼氏。いったいいつまで続くのやら、と思いながら白い目を投げかけた。
夏帆はまぁ、自由奔放だ。性格も恋愛事情も。それなりの規模の会社の社長令嬢と言っても、誰一人信用してくれない。
「じゃ……じゃあ、とりあえずディナーだけいただいて、さようならってことでいいの?」
4杯目のビールを片付けジョッキを置くと尋ねる。
さっきと同じ店員さんがやってくると、恐る恐る「次は……どうします?」と聞きてきた。
「あー……じゃあハイボールで」
その人は、まだ飲むのかと言いたげな引き攣った顔で消えていった。
「で、続きだけど」
またタバコを手にした夏帆は切り出す。
「うん。どうぞ?」
「色々あって、簡単に断れないんだよね。とりあえず1回でさよならは無しで」
「は、いっ? そんなの困るよ。その先も会えって?」
夏帆はタバコを咥えて吸うと、真っ赤なマニキュアの塗られた指でそれを離した。
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