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「いいじゃん。相手はいいとこのお坊ちゃんだからご馳走になっちゃえば。何回か会ったあとなら、やっぱり相性が、とかなんとか言い訳できるでしょ?」
それらしいことを言っているが、断る前提で何度も奢ってもらうのはただ集っているのと同じで気が引ける。
「そんなこと言われても……」
戸惑う私に、向かいで夏帆はパンっと音を立てて手を合わせた。
「お願いっ! パパの顔も立てなきゃいけないし。私もお礼に奢るから。このとおりっ!」
懐かしいな、この光景。学生時代、テスト前にこうやって何度も勉強教えてとお願いされたことを思い出す。
「けど、相手が一回でお断りしてくることだってあるじゃない?」
「あ、それはないから。向こうからは断らないよ」
「えぇ? なのに何回か会ってこっちから断るの?」
やけにハードルの高い注文だ。けれど、高級ディナーにぐらついてしまう。
「あとで色々問題起こっても責任取らないからね?」
プイッと横を向いてやけに薄いハイボールを口に運ぶ。
「わかってますって。さすが千春委員長! 頼りになるぅ」
夏帆は茶化しながら笑う。
私は深い溜め息と共に頭を抱えた。なんでか知らないけど、周りからなにかと頼りにされ続け、学生時代は学級委員長を何度かやった。
まさかこんな歳になっても同級生を世話をしなきゃいけないとは思ってなかったけど。
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