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いくら量を減らしてもらったとは言え、飲み慣れないワインはゆっくり飲んでもかなり回っている。だんだんと、理性が本能に傾いているような……そんな気がした。
出された料理の味なんてわからない。変なことを口走ってしまわないかそれが心配だった。ちーちゃんが表情で全部教えてくれて、喜んでくれていることに嬉しくなった。
早く次の約束をしたくて、けど言い出したいのになかなか言えないでいると、あまりにも挙動不審だったのかちーちゃんに尋ねられた。
だから僕は、小学生が学校帰りに、『ランドセル置いたら公園集合!』くらいの勢いで言った。
「僕はまた千春さんに会いたいと思ってます。明日……は駄目ですか?」
さすがにあっさり断られた。
一瞬落ち込んだけど、とにかく気を取り直してもう一度チャレンジする。
ふと、ちーちゃんに地元を見せたい、という気持ちが湧き、1週間後の約束を取り付けた。
そこからはもう自分がちゃんとしていたのかも定かじゃない。フワフワした頭と足のままちーちゃんをタクシーに乗せた。
「ご馳走様でした。じゃあ……また来週」
「はい。またご連絡します」
登録したメッセージアプリの『千春』の文字を思い出すだけで顔が緩んでしまう。一生懸命取り繕い挨拶すると、走り出すタクシーを見送った。
そのテールランプの赤が見えなくなると、僕は深い息を吐きその場に座り込んだ。
「お客様? どうかなさいましたか?」
ホテルのエントランスで急に座り込んだ成人男性を不審に思ったのか、ベルボーイに声を掛けられる。居た堪れなくなり「すみません……」と謝りながら、真っ赤な顔で立ち上がった。
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