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『ま、今はフリーだしさ。安心して』
電話の向こうから少し反響した夏帆ちゃんの笑い声が聞こえていた。
「うん……。頑張るよ。ちーちゃんに少しは男に見られるくらいには……」
なんとなく……だけど、今僕が幼なじみの冬弥だと知られたら、ちーちゃんは僕のことを幼なじみとしか見てくれない気がする。だから、少しでも意識して欲しい。僕が彼氏候補の土俵に乗れるくらいには。
『頑張れ頑張れ。初恋が実るの、友だちとして応援するからさ』
「えっ。初恋って……」
言葉を濁すと笑ったまま夏帆ちゃんは言う。
『違う?』
「…………。違わ、ない」
『だよね。当日こっそり見届けに行きたいけど、残念ながら無理だから。自力で頑張りなよ?』
電話の向こうで、ザバァっとお湯の音が聞こえる。今まで湯船に浸かりながら喋っていたようだ。
「夏帆ちゃん、何かあるの?」
含みのある言いかたに尋ねる。
『来週から10日ほど海外出張。帰るの再来週だから、当日なんかあっても話聞けないから〜。帰ってきたらまた聞くわ』
そういえば夏帆ちゃんは、インディーズ音楽レーベルの洋楽担当をしていると言っていた。それを聞いて、なんか似合う、と思ったのだ。
「そっか。気をつけて行って来て。メッキが剥がれないよう頑張るよ」
『ん。わかった。あ、彼氏がお風呂入ってきたから切るわ。じゃね!』
言うが早いかすぐに電話から切断された音が聞こえた。
……家にいたんじゃないの……? それに……。彼氏と一緒にお風呂、入るの……?
僕はポカンと口を開けたままその場に突っ立っていた。
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