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『たちかわー、たちかわに、到着いたしましたーーー。お降りの方は順番にお願い致します。たちかわに、到着ですーーーー。』
「ほら、姉チャン、降んで。着いたで。」
「ん?私、タケルさんの肩の上で・・・寝てたのね・・・気持ちよかったなぁ・・・」
「寝言、うるさいねん自分。車掌の声より、鼾が大きいってどういうこっちゃねん。」
「え?嘘ー!ーーーーーー。」
「嘘や!行くで!」
「どっちなの?!」
俺は心愛の手を引いてJR中央線を降りた。
時刻は8時半になろうとしている。俺の睡眠薬投下時間、ギリギリまで、後、2時間半・・・
立川駅南口を出て陸橋を渡る。ゆっくり歩くとフロム中武の横を抜けて、一度、立川競輪場へ行くコースへ向かう。途中、女子高のテニスコートを左に見て更に左に折れる。
「コーポ・タチカワ3」という二階建ての木造住宅の前で立ち止まった。
「ここや。」
俺はモスグリーンのトレンチコートを着ていた。その左ポケットから、じゃらじゃらとキーを取り出した。その中の一本の鍵を取り出すと、鍵穴にぶっ刺す。キーは冬の夜空に吸い込まれていくようにカチッと乾いた音がした。
「おぉ!入るで。」
「はい・・・」
彼女の腰は俺に確保されて身動きが取れない。頭は彼の肩上に乗ったまま、身を預ける形になっている。暗がりで良く分からないが、彼女の顔が恥ずかしそうに真っ赤になっているのが確認できた。彼は1DKのアパートのリビングの灯りを点けた。
「結構、部屋、キレイやろ?俺、掃除が趣味やねん。」
「はい・・・」
「何や、反応、薄いなぁ・・・さっきの元気はどないしたん?」
「いや、あの・・・」
「どうした?言うてみい。オトコの部屋はもしかして、初めてかいな?」
心愛は唾を飲んでコクリと頷く。
「ええぇ!ホンマか!オマエ、ホンマに処女かいな?」
再び彼女はコクッと頷いた。少し、怯えているようにも見える。
「かなわんなァ・・・お前、オトコの幼馴染を作るところから始めたほうがええんちゃうか?よくこんなんで、キャバ嬢やろうと思ったな。」
「お金がいるんです。大学の授業料です。私、私立理系なんで年間、180万です。」
「さっき、経済学部言うたんは嘘やったんかいな?」
「それは・・・」
「分かった、分かった。」
俺は面倒臭そうに財布から十万円の束を取り出した。
「今日の所は、これで帰れ。十万ある。処女言うんはホンマか嘘か分からんやろ?自分、パパ活する気やったやろ?今日初めて会った、兄ちゃんに股開かなあかんねんぞ、分かっとんか?キャバクラも行くな!お前は向いとらん。キャバクラ舐めとるやろ?」
「いえ、そんなことは・・・はい・・・すいません。ゴメンナサイ。」
「キャバ嬢でメンヘラになる確率。高いで。大学どころやない。今日は帰れ、若い姉チャンの腰を触れただけでも嬉しかったわ。ありがとうな。」
心愛が泣き崩れた。緊張していたのだろう。怖かったのだろう。俺は彼女の背中を摩りながら若干の眠気を感じていた。寝てしまう前に風呂だ。
ひとしきり泣いたあと、彼女は外に出ていった。
「こら!カネ、持っていかんかい!」
俺は彼女のヒップポケットに十万円、捩じ込むと自分の部屋に戻って行った。
時刻は9時半過ぎ。風呂入って睡眠薬を飲むだけだ。時間通りに眠剤を飲むために十万円を払ったことに後悔はしていなかった。
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