アートな世界

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放課後。 田中くんと美術室へ向かっていた。 「田中、くんは、美術部?」 「そうだよ。あの人は三年の先輩。ちょっと変わってる人だけど、絵の腕は確かだよ」 田中くんはにこにこと微笑みながら先輩について教えてくれた。本当に先輩を尊敬しているのだろう。 「あっ、ここ。ちょっと汚いけど、どうぞ」 田中くんがドアを開けてくれたのでそっと中に入ってみた。 足を踏み出そうとして、困惑する。床にはところせましと絵の具やキャンバス、筆やペンキなんかが散乱していて足の踏み場がない。 ちょっとどころの汚さではなかった。 困惑したまま田中くんを振り替えると、恥ずかしそうに頬をかいていた。 「いやぁ~、実は美術部員、皆掃除が苦手で」 田中くんは先導して散乱したものをどけながら僕を案内してくれた。 やっとの思いでたどり着いた先には、机に紅茶とチョコレートをセッティングしている先輩がいた。もちろん机以外の場所は画材が散乱している。 「いらっしゃーい。これ、約束のチョコレートよ。さぁ、たんとお食べになって」 先輩と紅茶をのみながら話すこと30分。味わいながら食べていたチョコレートを食べ終わったとき、先輩の目がガラリと変わった。さっきまで目の中に浮かんでいた温かさは微塵もなく、鋭くどこまでも見透かされそうな目になっていた。 心の奥底まで知られてしまうのではないかと錯覚するような視線に居心地の悪さを感じながらも、動くことはできなかった。 数分か数十分かどれ程経ったか分からない。背中を伝う冷や汗を鮮明に感じ取れるほど感覚が過敏になっていた。 「そぉーねぇ、あなたの大事な人の話を聞かせてくれないかしら?」 ふっと優しく笑った先輩に先程の鋭さは微塵も感じられない。 からだの力がすっと抜けていくのと同時に、長く息を吐き出した。強ばっていた身体はじわじわとほぐれてきて、自然と口を開いていた。
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