洋館

2/5
前へ
/7ページ
次へ
 家に帰ったあと、約束どおり洋館へ向かった。  遠くからでも洋館の存在感はすごい。厚い雲のせいで辺りは灰色につつまれ、館の陰気度が増している。周りにあるのは畑や農家ばかりだからよけいに目立つ。持ってきたカサが重く感じた。 (やだなー。やだなー)  そうおもっていても、サキにはなんだか昔からさからえない。五年生になってもそれは変わらなかった。  館に近づくとすでにサキがいた。僕は小走りで急いだ。 「おまた――」 「しー! もうお屋敷に人がいるの」  サキの小声は興奮していた。  生垣のあいだから屋敷をのぞく。(あか)りがもれてきていて、三つの人影が動いている。窓は氷がはってるような曇りガラスで、なかはよくわからない。 「あそこにいるのは、ご主人様と執事と愛人てとこかな」  推理物語の探偵をおもいだして推理をしてみる。 「なんで?」 「三つの影のうち、一つはせわしなく動き続けていて、あとの二つは、ほぼいっしょにいる。ならば、ひとりは執事で間違いないさ」  探偵になりきり、エアパイプの煙を吐いた。 「で、あとのふたりが主人と愛人ってのは?」 「カン」 「カン?」  サキの声が裏返ったときだった。  甲高(かんだか)い悲鳴が響いた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加