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家に帰ったあと、約束どおり洋館へ向かった。
遠くからでも洋館の存在感はすごい。厚い雲のせいで辺りは灰色につつまれ、館の陰気度が増している。周りにあるのは畑や農家ばかりだからよけいに目立つ。持ってきたカサが重く感じた。
(やだなー。やだなー)
そうおもっていても、サキにはなんだか昔からさからえない。五年生になってもそれは変わらなかった。
館に近づくとすでにサキがいた。僕は小走りで急いだ。
「おまた――」
「しー! もうお屋敷に人がいるの」
サキの小声は興奮していた。
生垣のあいだから屋敷をのぞく。灯りがもれてきていて、三つの人影が動いている。窓は氷がはってるような曇りガラスで、なかはよくわからない。
「あそこにいるのは、ご主人様と執事と愛人てとこかな」
推理物語の探偵をおもいだして推理をしてみる。
「なんで?」
「三つの影のうち、一つはせわしなく動き続けていて、あとの二つは、ほぼいっしょにいる。ならば、ひとりは執事で間違いないさ」
探偵になりきり、エアパイプの煙を吐いた。
「で、あとのふたりが主人と愛人ってのは?」
「カン」
「カン?」
サキの声が裏返ったときだった。
甲高い悲鳴が響いた。
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