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そのあとにも女性がはりあげる声は続いていて、なんだかお母さんが怒っているときに似ている。
「ねえ、タクヤくん。こわくてトイレいきたいなら、いってきてもいいわよ」
「トイレ? 大丈夫だよ」
僕がこわがりなのを知っているからだろうか。サキから変に心配されているあいだに声はやんだ。
けど、しばらくカラスがけたたましくわめいていた。まるで、魔女の呪い声に呼応したみたいに。
「なにがあったのかしら。なにか事件?」
「きっと、魔女の怒りにふれた主人はヒゴウの死をとげたんだ」
サキの『事件』という言葉から僕の頭のなかでは、殺人事件が浮かんだ。いままで妄想していた魔女と結びついて。
「なにを言ってるの、タクヤくん。まだ三人の影があるわよ」
冷静に否定され、僕は思案に詰まった。サキも答えをだせず、ふたりともしばらく無言で館を見つめた。
すると、館の立派な正面玄関ではなく、横のせまいドアが開いた。
たがいに目配せしあう。
広い庭のむこうにある館のドアまでここから少し距離があるし、あたりは暗くなってきている。なかから人がでてきたけど、腰の曲がった老婆らしいことがなんとなくわかったくらい。
老婆は黒いビニール袋を持っていた。どさりと置くと、冷たい音をたててドアを閉じた。
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