1人が本棚に入れています
本棚に追加
「まさか死体?」
さっきからずっと考えていたことが口にでた。
「そんなわけないわよ。三人の影はある」
「きっと魔女が魔術でなんかしたんだよ。だから」
「魔女とかまだ信じてるの? 幼稚ね」
「魔女もオニも桃太郎もいるんだ!」
「静かに! バレるでしょ」
サキがにらんだ。あのときの目は魔女よりこわかったかもしれない。でも、僕にもゆずれないものはあった。
「ご、ごめん。でも、いつか僕はいるって証明してみせるよ」
「そうよ、証明よ。確かめにいきましょ」
「え?」
「あそこ答えがある」
サキは藪をかきわけて館を目指しだした。
あわてて付いていく。
ゴミ袋まで、館の人に見つかることなくたどりついた。
けど、そこには強烈な臭さがただよっていて、おもわず叫びそうになった。館の人に見つかるまいと、口を両手で押さえる。
「なかを確認してみたいけど、ここでガサゴソするとバレるかも。あっちの草むらまで持っていったらどうかしら」
イヤな予感がして、目をそらす。
「ねえ、運んでよ」
やっぱり。腕を引っ張られた。
持っていたカサをサキに渡して、しぶしぶ袋を両手でつかむ。
力仕事は僕の得意とするところだった。でも、あのときは請けおいたくなかった。臭いし、ハエもたかっているし……生首でもはいっていそうな重さ。
気持ち悪さと恐怖とたたかいながら、指定された庭のかたすみに運んだ。
「開けて」
指示されるがまま、袋の結び目をほどいた。
あらわれたのは、黒くどろりとした丸いなにか。それはまるで、血にぬれた黒髪の頭部のよう――。
「で、でたー! 生首だー!」
僕はかけだし、はじめに観察していたところまで帰ってきた。
「タクヤくん、ちゃんと確かめないと」
サキは一歩も動かず、袋をのぞきこんでいる。
「これ、死体じゃないとおもうよ。でも、なんだろ」
サキはカサで黒い物体をつっついた。
僕のカサでさわるなよ、と文句をいおうとした。
そのとき。
館から人がでてきた。腰の曲がったあの老婆だ。サキのほうに向かってくる。完全に気づかれた。
「なにやっとる!」
老婆は意外と元気な足どりで、迫ってくる。
「はやく逃げろ」
呼びかけても、サキは動こうとしない。こわくて動けないのだろうか。
けど、もしアイツが魔女で、つかまったら大変だ。煮こまれるかもしれない。
彼女を救うため、戻り走る。
最初のコメントを投稿しよう!