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「魔女め、消えろ!」
老婆の前におどりでると、目をつぶって隠し持っていたニンニクをかかげた。
数秒。みょうな間があって。周りがどっと笑った。
笑う人たちを見渡すと、サキの笑顔のよこには魔女……ではなくサキのおばあちゃんがいた。
「え。あ、こんにちは。いや、ごめんなさい」
「ニンニクは魔女には効かんさ。ドラキュラには効くかもしれんがね」
はずかしさにホオが熱くなりながら僕は頭をさげた。肩をおばあちゃんが優しく叩いた。
「なーんだ、ニンニクか。タクヤくんが臭いから、てっきり、もらしてたのかと」
「僕はもらしたりしないよ」
「あっそ。ねぇおばあちゃん、これなに? あの悲鳴と関係あるの」
僕のメンツなんて気にせず、サキはおばあちゃんに質問した。
すると、おばあちゃんは顔をしかめた。
「これは……腐ったキャベツだよ。これを見たアタシが悲鳴をあげたのさ」
「キャベツ?」
僕らの声がひっくり返った。
「まったく。ダンさんが『かぶ太郎伝説』を信じたらしい。半年放置した蕪からヒトがうまれるなんて、ありえないのに。それをキャベツでやってみたなんて――」
かぶ太郎伝説? と僕は首をかしげた。桃太郎や浦島太郎は知っているけど、かぶ太郎は知らない。サキも不思議そうな顔をしている。
「ノンノン。かぶ太郎は実在しますよ。彼は株の取引がうまいのです。
しかし、このキャベツは太郎になりませんでした。残念ながらね」
とつぜん老紳士が登場した。執事ぽい人もいっしょに。
僕は驚いた。推理があたったのだ。
「ご主人様と執事と愛人だ!」
ずっと考えていたことをそのまま口走った。『愛人』も正しかったかはわからないけど。
と、おばあちゃんの顔がみるみるけわしくなった。
「あんたらなにを見た」
オニババのような形相で仁王立ちされて、僕は息をのんだ。
サキはおびえず前にでる。
「私たちが見たのは三人の影と腐ったキャベツ。主人と執事と愛人はタクヤくんの推理よ」
孫の答えに、おばあちゃんはいつものおばあちゃんに戻った。小指をつきだして。
「あらそうかい。んじゃ、今日ここであったことは、おばあちゃんとナイショにしましょ」
「また増えたね。おばあちゃんとナイショ。ほら、タクヤくんも早く」
サキがおばあちゃんの指に小指をからませた。そして、僕もこわごわ指をからませ、ナイショを誓ったのだった。
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