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渡があごひげをしごきながら、言いにくそうに星島に訊いた。
「AVに適正とか不適正とかあるのか? 星島さん、すまんが我々は業界の事については全員素人でね。一から説明してもらえませんか?」
星島はうなずいて、いくつかの団体のホームページをプリントアウトした紙をテーブルの上に並べた。
「まあ、昭和の時代にはかなりひどい女優の扱いもあったみたいですね。業界には相当ご高齢の大御所さんもいるから、あたしも聞いた事はあります。2010年代になると、DVDだけじゃなくてインターネットでの映画やテレビドラマの配信が増えて、AVもそういうルートで売られるようになりました。ただ、従来のAV制作会社だけじゃなく、個人で似た様な作品作ってネットで流すケースも増えたんです」
星島が二つの団体のホームページの画像の紙を指差す。
「そういう新参勢力の場合だと、出演強要とか出演女性の人権無視とかも多くて社会問題になりかけたんです。そこで既存のAVプロダクション、作品メーカーなどが協力して対策を始めました。まずプロダクションが業界団体を作ったんです。それがこの、日本プロダクションギルドと第二ギルドですね」
渡が紙を見ながら言う。
「AV女優の、労働組合みたいな物かね?」
星島はまた首を横に振る。
「いえ、AV専門の芸能事務所みたいな物なんですよ、プロダクションは。そもそもあたしたちAV女優は所属しているプロダクションの社員じゃありません。あたしたちは個人事業主で、プロダクションとの間の契約はあくまで、業務委託契約なんです」
筒井が小さく右手を上げ、おそるおそるという口調で星島に訊いた。
「あの、星島さん。初歩的な質問ですみませんが、プロダクションとAV作品を作る会社は別なんですか?」
「はい、撮影して作品作る会社はAVメーカーですね、あたしたちはそう呼んでます。プロダクションはマネージメントをする方の会社です。あたしたち女優の代理としてメーカーさんと交渉して、出演料とか売り上げの配分とかの交渉をしてくれて、あたしたちのスケジュール管理なんかもします。それでお金が入ったら、あたしたちはマネージメント料をプロダクションに払う。そういう関係ですね」
「ええと、じゃあメーカーの業界団体はまた別にあるんですか?」
「はい。そっちは日本映像制作・販売倫理協議会です。AV作品を販売ルートに乗せていい物かどうかを審査する、いわゆる自主規制団体ですね」
「ううん……でも、それって仲間内のチェックに過ぎないんじゃないですか?」
「そう言われないように、この二つのプロダクション団体とメーカーの自主規制団体は、さらに法人会員として別の第三者機関に所属しています。ええと、この紙にある所ですね。AV人権規範機構と言います」
「は? また業界団体?」
「いえ、この機構は業界団体じゃありません。どっちの業界からも独立した第三者機関です。プロダクションやメーカーが法律に違反していないか、女優の人権侵害をしていないかを監視して、もしあれば女優が直接ここに救済の申し立てをする事も出来ます」
「ははあ、ピラミッドみたいなチェック体制があるわけですか。つまり、これらの業界団体や自主規制団体の枠組みに参加しているAV関連会社と、そこを通して作られた作品、それが適正AV?」
星島はにっこり笑って大きくうなずいた。
「そうそう! そういう事なんですよ」
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