マグダラのマリアのための黙示録

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 宮下は相手を刺激しないように努めて冷静な口調で星島に訊いた。 「あなたが国会議員と電話を? 前からのお知り合いですか?」  星島は首を横に振りながらハンドバッグから紙の資料の束を取り出しながら言った。 「いえ、つい最近です。あたしたちAV女優、いえAV業界全体が、あの人にだまされたようなもんなんですよ。AV良化新法の事ご存じですか?」  渡研の全員がきょとんとして首を横に振った。星島が書類をテーブルの上に広げながら説明する。 「今年の6月に出来た新しい法律なんですけどね。正式名称は」  星島が書類の一枚を手に取り、その名称を読み上げる。 「性をめぐる国民の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律……です」  ずっと聞いていた渡たちは、思わず大きく息を吐いた。渡が眉をピクピクさせながら言った。 「ずいぶん長ったらしい名前の法律ですな」  星島が口を尖らせて話を続けた。 「通称AV良化法って呼ばれてますけどね。この法律のおかげであたしも含めて大勢のAV女優の仕事がなくなって、収入もよくて激減、最悪ゼロにされちゃったんですよ」  渡が筒井に向かって訊く。 「筒井君、新聞記者なら何か知っているんじゃないか?」  筒井は申し訳なさそうな表情で首を横に振った。 「ああ、いえ、初めて聞きました。新法なら政治部の担当ですかね? あたし社会部の記者ですから」  星島が書類を見ながら続きをまくし立てる。 「法律が出来る課程も無茶苦茶だったんですよ。最初に話が出たのが今年の4月。法案提出が5月25日。5月27日に衆議院本会議で全会一致で可決。6月15日に参議院本会議で可決、反対は一人だけ。で、6月22日に公布、その翌日の6月23日に即施行」  筒井がタブレットで情報を検索しながら思わず言った。 「確かに異常な速さですね。3か月もかかってないなんて」
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