マグダラのマリアのための黙示録

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 宮下がやや混乱した表情で星島に言う。 「いわゆるAV、アダルトビデオに法律上の規制がかかったから、あなた方が困っているというわけですか?」  星島は顔をしかめて大きく首を振った。 「最初は18歳、19歳の新成人に対する特別な保護が必要という話だったんですよ。ほら、今年の4月1日から、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたじゃないですか」  渡が、やっと自分にも理解できる話が出た、と言いたげな表情で言葉を発した。 「ああ、そうでしたな。うちの大学でも新入生は即成人になるので、いろいろ気を遣ってますよ」  星島がおおきくうなずいて話を続けた。 「そうなると、18歳、19歳の新成人の女の子たちがAV への出演を強要される危険があるって、フェミニスト団体が騒ぎ出したんですね。その陳情を聞いた一部の野党議員が、じゃあ、特別な法律作ろうって事になって。この段階ではあたしたち女優だけじゃなくて、AV業界全体としても別に反対してませんでした。むしろ賛成してましたよ」  宮下が大きくうなずきながら言う。 「ああ、未成年者取消権の関係という事ね」  松田が宮下に訊く。 「何でありますか、それは?」 「未成年者は保護者の同意が無いと、契約をする事ができないのね。悪徳商法とかで、相手が未成年だと知った上でさせた契約は、保護者が無条件で無効にできるという法律上の規定があるんです。今年の3月までは、18歳と19歳にはその取消権があったんだけど、4月1日からそれが無くなった。AV出演の契約も、この未成年者取消権の対象でしょうからね」  遠山がまた首を傾げながら星島に訊く。 「よく分からないな。その年齢の新成人の女性をスカウトできなくなった、というだけの話じゃないんですか? どうして星島さんのようなキャリアの長い人までが困るんですか?」  星島が答える。 「いえ、そういう話じゃありません。だいたい遅くとも2016年頃からは、20歳未満の子が応募して来ても、採用していませんでしたから。適正AVの枠組みに参加している会社なら」  期せずして、渡研の5人全員が声を上げた。 「適正AV?」
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