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プロローグ
初心者マークも外れていないのに、高速に乗ろうと思ったのが間違いだったんだ。あの日、下道でゆっくり帰っておくんだった。いや、弟の送り迎えをするなんて言い出さなければ。最初から車なんて運転しなければ……。
私は病室で点滴を打たれながらそんなことを考えていた。病室にあるテレビで見た。私が車をぶつけてしまった女の子が亡くなってしまったこと。彼女も私と同じ20歳だったこと。その車を運転していたのは、彼女の彼氏だったこと。
「えりか、生きててよかった」
私が意識を戻したとき、家族は涙ながらにそう言っていた。違う。あの子の代わりに、私だけが死ぬべきだったんだ。
「僕のせいだ、ごめん」
弟は自分が公共交通機関を使わなかったせいだと口にした。そんなことはない。悪いのは全部私だ。とりたての運転免許で運転したかった。弟にもう運転できることを見せつけてやりたかった。
「お母さんたちが出かけていたのが悪いのよ」
母はそう言って、父も同調して謝っていた。やめてくれ。謝られれば謝られるほど、私は自分のことを責めてしまうのだった。
「あの日をやり直したい」
私は気づくと嗚咽を上げて泣いていた。どうしてあの子が死んで、私が生きているんだろう。泣いて泣いて、いつの間にか気を失っていた。
暗い闇のなかをえりかの身体がゆっくりと沈んでいく。
「せめて、あの子の命が助かってほしかった」
私が切実にそう願ったとき、身体がふわふわと浮かんでいく感覚があった。ああ、私の魂が昇天していくんだ。きっと、あの子の代わりに。よかった。これで、あの子が助かる。
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