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プロローグ 初恋(蔦田side)
出会いは中学1年の時だった。
そいつはいつも、教室で難しい本ばかりを読んでいて、黒縁メガネになで肩だからなのか、結局、3年間制服がブカブカした感じの奴だった。
名前は深沢奏斗。
成績優秀で、将来は弁護士になりたいんだと語っていた。
普段は大人しい癖に、夢を語る時は瞳を輝かせて真っ直ぐに話す瞳が印象的だった。
親の決めたレールしか走れない俺にとって、深沢は羨ましくもあり、眩しい存在だった。
そんな俺達が、性格は真逆なのにつるむようになったのは……なにがきっかけだったのかさえ忘れる程、深沢は自然に俺の生活に溶け込んでいたんだ。
だから、ずっと……深沢とは友達で居られると思っていたし、この関係は変わらないと思っていた。
でも……その関係を壊すような感情を、俺は深沢に持ってしまったのだ。
あれは夏の暑い日だった。
制服のシャツのボタンを第二ボタンまで開けて、下敷きで扇ぐ深沢の鎖骨にあるホクロを見て……俺は欲情してしまったのだ。
始めての自慰行為は、深沢の鎖骨にあるホクロから、深沢の身体に舌を這わせて激しく深沢を抱く妄想だった。
『あっ……あっ……』
深沢の唇から漏れる甘い声も、汗が浮き上がる首筋を舐めてあいつの中に自分の欲望を突き入れて、激しく腰を打ち付けて果てる妄想を何度したかも分からない。
当時の俺は、深沢への罪悪感と美しい婚約者に対して恋愛感情が持てなかった理由に気付いて、ショックを受けたっけ……。
俺には、物心着いた時から親が決めた許嫁が居た。本家が総合病院を経営している高杉家の分家で、俺と同じ年齢の高杉美鈴という少女だった。彼女は意志の強い瞳が印象的な美少女で、普通の男だったら諸手を挙げて喜ぶ程の、出る所は出て、引っ込む所が引っ込んでいる抜群なスタイルに加えて、目の覚めるような美少女だった。
でも俺は、彼女に対して(綺麗な子だなぁ~)くらいは思ったが、それ以上にもそれ以下にも感情は生まれなかった。
月に一度、親や親戚のパーティーで顔を合わせ、無理矢理一緒に居させられる相手という程度の関係性だった。
そして彼女も又、何か事情があるのか、はたまたま俺が好みのタイプでは無いのか。
俺に対して、俺の感情と大差ない印象を受けていた。
そんなある日、高杉家のパーティーで彼女が俺の隣から走って何処かへ行ってしまった事があった。気になって探していると
「そ~う!」
俺には見せた事の無い、明るい向日葵のような笑顔を浮かべた彼女が、別世界の生き物かと思う程に綺麗な男の子に抱き着いたのだ。
「美鈴!」
つまらなそうに会場の端に立っていた少年は、彼女の姿を確認すると、パアッと大輪の白い薔薇が綻ぶように微笑んだ。
「創も来てたの?」
「うん」
「大丈夫?顔色、悪くない?」
俺には見せた事の無い、まるで聖母マリアかのように慈しみ深い表情で少年の頬に触れている。
(成程……、彼女はあの少年が好きなのか……)
物陰から様子を見ていると、反対側から高杉家の馬鹿兄弟の姿が見えた。
彼女とあの少年が二人きりで居るのがバレたら面倒くさそうだと、探していた振りをして
「美鈴、何をしている?行くぞ」
そう声を掛けると、馬鹿兄弟は俺の姿に気付いて踵を返したのが視界の端に見えてホッとした。美鈴もそれに気付いたらしく
「じゃあね、創。無理しちゃダメよ」
なんて、俺には見せた事も無い優しい笑顔と優しい声で言うと、俺の隣に並んだ。
彼女が俺の所に来る間、俺は美しい少年の嫉妬の眼差しを浴びながら、彼女と並んで歩き出す。
「美鈴さんは……彼が好きなんじゃないの?」
ポツリと質問すると、驚いた顔で彼女が俺の顔を見上げた。
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