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「何?」
「あ……いえ。私に興味が無いと思っていたので……」
彼女の言葉に小さく笑うと
「それはお互い様だろう?」
そう返した俺に、彼女はびっくりした顔から吹き出して
「な~んだ!分かってて、一緒に居たの?」
クスクスと笑う笑顔は、初めて見た素顔の彼女の笑顔だった。
向日葵のように明るく可愛らしい彼女に笑顔に、何故だか救われたような気持ちになった。
「なぁ、美鈴……。大事な話があるんだ」
ぽつりと呟いた俺に、彼女は
「婚約破棄はしないわよ」
と切り返してきた。
「え?」
「え?違うの?」
真っ直ぐに俺を見つめる彼女に
「いや、そうだが……。きみは、さっきの彼が好きなのだろう?だったら……」
そう言うと、彼女は意志の強い瞳で俺を見つめ
「私は創を助けたいの!その為なら、ハゲでもデブでも、キモい親父とだって結婚してやるわ。でも、今の私の婚約者候補で、一番力が強くて高杉家の本家と仕事で一切絡まないのは貴方なのよ。尚寿さん」
と言って悲しそうに微笑んだ。
「助けたいって……」
「多分だけど……創は高杉のバカ兄弟に、性的虐待を受けているんだと思うの。あんな奴等に、私の大切な創をめちゃくちゃにされてたまるもんですか!」
彼女の言葉を嘘だと否定出来なかったのは、あの本家の兄弟の評判の悪さと、あの時に見たこの世の生物とは思えない程の美貌を持った少年を、あいつらが放っておく訳が無いと頷けた。
「でもそうなると、きみは彼と結ばれる事は出来なくなるが良いのか?」
俺の問いに、彼女は真っ直ぐに俺を見つめて
「創をあの悪魔達から引き離せるなら、私の想いなんてどうでも良いのよ」
そう答えた。
この時俺は、そんな彼女の力になってやりたいと、単純にそう思ったんだ。
「俺もひとつ、話しておく事がある。俺は……ゲイなんだ」
鉛を吐き出すような思いで呟くと、彼女は真っ直ぐに黙って見つめていた。
「自覚したのは最近で……。だけど、きみと結婚したら子供を作らなければならない。でも、俺はきみを抱けないと思うんだ」
ぽつりぽつりと話す俺に、彼女は
「そんなの、今の医学ならどうとでもなるわ。創に手出しさえしなければ、私達は利害関係が一致していると思うのだけれど?」
そう持ちかけてきた。
「彼は確かに綺麗だけど、俺の好みでは無いから安心してくれ」
「そう、じゃあ……手を組みましょう。私は創を助けたい。だから、あなたと結婚して創を高杉家の籍から抜いてあげたい。あなたはゲイだけど、蔦田家の為に跡取りが必要。私が偽装結婚の相手にもなるし、あなたの子孫を産んで上げる」
彼女の強い瞳に導かれるように、俺達は手を組んだ。
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