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俺は美鈴と契約してから、今まで以上に親の仕事を手伝いながら勉学にも励んだ。
親達は、俺が美鈴を気に入ったのだろうと勘違いしてくれて、俺を早くから次期跡取りとして扱うようになった。
美鈴との婚約は、美鈴自身も他の人との婚約に首を縦に振らずに来たのに、俺との婚約をすぐに承諾したので、蔦田一族で念願の地元の名家である高杉家との繋がりが持てると俺を祭り上げた。
その頃から、俺は家でも外でも気を抜けない生活を強いられるようになる。
『完璧な人間』で無ければならず、弱味を見せてはいけなかった。
いつもピンっと張った糸のような精神状態に、俺は疲れ切っていたんだ。
そんなある日
「蔦田、今度の休みにウチに来ないか?」
深沢に突然誘われて、本当なら一も二もなく行きたい所だが、休みの日は美鈴と過ごす時間にされていた。
俺も美鈴も、正直、自由な時間が欲しいと思っている。
しかし、互いに結婚を決めた以上、表向きは思いを通わせているように見せなければならない。
「あ~……悪い。行きたいけど、先約が……」
そう答えた俺に、深沢は心配そうに顔を歪めて
「大丈夫か?無理してないか?」
と聞いて来たのだ。
誰にもバレないようにしてきたのに、深沢にバレて驚いていると
「他の人が気付かなくても、僕の目は誤魔化せないよ」
そう言われて、気が緩んでしまった。
深沢の身体を強く抱き締めると、深沢の身体が緊張で固まってしまう。
ふわりと香る深沢の匂いに、やっぱり好きだなぁ~と思いながら背中を二発叩くと
「ありがとう!今のハグでお前のエネルギーを吸い取ってやったから、元気出た!」
そう言ってニヤリと笑うと、深沢は真っ赤な顔で視線を逸らすと
「俺をハグして元気になるなら、幾らでもしてやるよ」
と答えると、恥ずかしそうに俯いた。
(そういう顔見て、欲情しちゃう自分にガッカリだな…………)
そう思いながら、俺は小さく笑って
「深沢の癖に生意気!」
と言いながら、鼻を摘んでやった。
「ちょっ!人が心配してるのに!!」
真っ赤になって怒る深沢に、俺は笑いたくも無いのに笑顔を作って
「心配してくれて、サンキュ!」
と答えると、深沢に背を向けた。
これ以上一緒に居たら、深沢にキスしたくなる。あの白い肌に触れたくなる。
だから……もう、潮時なのかもしれないと思ったんだ。
俺の手で、大切な親友との関係を壊してしまう前に、こいつの前から消えようと思った。
卑怯だけど、情けないけど…………、俺は深沢から逃げる事を選んだんだ。
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