53人が本棚に入れています
本棚に追加
「え?受験は私立にした?」
中学3年の夏。
俺は深沢と約束していた公立の進学校から、大学附属高校への進路変更を伝えた。
もう、限界だった。
『友達』と言う仮面を被り、その実、俺は何度も深沢を夢で穢していたのだ。
俺はいつ、心の中の野獣が深沢に牙を剥くのか怖かった。
「蔦田」
穏やかに微笑みながら俺の名前を呼ぶ深沢の笑顔も、弁護士への夢に向けてひたむきな姿も……。
全てが羨ましくもあり、全てが愛おしかった。
俺が一言「好きだ」と告げたら終わる関係。
それならばいっそ、離れた方が良いと思ったんだ。
俺は中2から遊びを覚え、女性の身体に魅力を感じない性癖だと知ってからは、いろんなヤツと遊びまくった。
それこそ、一夜限りの関係から、互いに都合の良い時にセックスをするセフレも居た。
ただ、それを深沢にだけは知られたくなくて、学校では良い子の仮面を被り続けていた。
「ねぇ、そんなんで疲れない?」
いつだったか、美鈴が俺に聞いて来た事があった。
「もう、慣れたよ……」
苦笑いを浮かべた俺に、美鈴は
「案外、思いを伝えたら上手くいくかもよ」
そう呟いた。
俺は苦笑いを浮かべたまま
「バカも休み休み言えよ。あいつはノンケで、俺とは違う」
と答えると
「そうかなぁ?私には、そうは見えないけど」
そう呟いて、美鈴はそれ以上何も言わなかった。
深沢には、婚約してすぐに美鈴を紹介していて、何度か一緒に遊んだこともある。
あいつは俺の婚約に、嬉しそうに笑って
「わぁ!こんな綺麗な人が婚約者なんて、蔦田が羨ましいよ!」
なんて答えたんだ。
美鈴の言葉にその気になって、告白した所で上手くいく訳が無い。
俺は自分の感情に蓋をする事にしたんだ。
俺の進路変更を伝えると、深沢は冒頭の台詞を吐き出した後、俺の胸ぐらを掴んで
「なんでだよ!なんで変えるんだよ!!ずっと一緒だって、ずっと友達だって約束したじゃないか!!」
涙を浮かべて叫んだアイツから逃げるように
「ずっと一緒は、無理だろう?」
そう答えてしまう。
「俺は、ずっとお前とは一緒にいられる友達だって信じていたよ!!」
涙で訴えるあいつに、俺は残酷な一言を口にしてしまう。
「マジで、ずっと一緒にいられるなんて思っていたのかよ」
そう呟いた俺の頬に、深沢の平手が炸裂した。
でも、痛くなんか無かった。
悲しそうに涙を流す深沢を見た胸の痛みの方が、俺には数倍も痛かった。
走り去る深沢の背中に
「ごめんな……深沢……」
と、ポツリと呟いた。
俺には決められたレールがあって、美鈴と結婚したら、あいつが従兄弟とやらと結ばれるまでは夫婦関係で居なければならない。
どの道、俺に恋愛なんて無理な話だったのだと……そう自分に言い聞かせていた。
最初のコメントを投稿しよう!