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私は言いたいことを言い終えほっと息をついた。これで心置きなく食べてもらえると、目を閉じその時を待つ。しかし化け物は沈黙し動かない。おそるおそる目を開けると、こちらを見下ろす化け物と目が合う。
「今までたくさんの人を食うて来たが、自分から食べられたいという変わり者を見るのは初めてだ」
「……怯えた方が良かったですか?」
怯える人間を食べるのが好きなのかもしれない。気分をそがれて食べてもらえなかったら、どうしよう。今からでも怯えた真似をすれば間に合うだろうか。
慌てたが、化け物はおもむろに大きく口を開いた。
食べてもらえるようだ。安堵にまた目をつむる。生暖かい息がかかったと思ったが、いつまでも衝撃は来ない。
「……食う気が失せた。そのように生白く、肉もついていないのでは食いごたえもない」
目を開けると、私の手足を縛っていた縄が切られていた。
化け物の言葉に自分の体を見下ろす。骨と皮だけとは言わないが、最低限の食事しか与えられなかった私は確かにどこもかしこも薄い。あの大きな口を見れば、たくさん肉がついて丸々としていなければ食べた気にならないのも納得だ。
でも、それでは。食べてもらえないのか。
食べてもらえる日だけを夢見て、今日まで生きて来たのに。
このまま捨て置かれるのだろうか。肩を落とし、項垂れる私に化け物が告げたのは予想外のことだった。
「お前がまるまると太るまでは、俺の元で飼ってやろう」
「本当ですか! 私、太れるように頑張ります!」
「……ずいぶんとおかしなことになった」
喜ぶ私を見て、化け物がこぼした呟きは私の耳には入ってこなかった。
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