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新しい暮らし
お堂の中にいたはずなのに気づけば私は別の建物にいて、土間のたたきに立っていた。埃っぽいが明かりが灯され生活感があり、どこかの屋敷のようだった。
私が戸惑いながら辺りを見回していると、奥から羽音がして烏が飛んできた。
「主様お帰りなさいま……ってどうして人の子がいるのですか!」
嬉しそうに化け物に向かって近づいた烏が、化け物の影に隠れていた私に気づくと抗議の声を上げた。
『今日もらい受けた人の子だ。これの世話をお前に任せる』
「なっ、なぜわしが! それに人の子をここに置くつもりなのですか!?」
『ここでの暮らし方を教え、一人で生活が送れるように仕込め。とりあえず食事を沢山とらせて太らせろ』
烏の問いに答えることなく、それだけ言うと化け物は霞のように消えてしまった。
取り残された一人と一羽。烏の羽音だけが虚しく響く。私がどうすればいいのか戸惑っていると、烏が「クワッ!」と大きく鳴いた。
「主様は相変わらず勝手なことを! 面倒ごとばかり持って帰ってきて後始末は全てわしにやらせるのだから!」
怒りを爆発させるように、烏は無茶苦茶に飛び回った。当たらないように、首をすくめ顔を腕で覆う。
一通り暴れて満足したのか、烏は梁に止まると私を見下ろした。
「任せられたからには、完璧にこなすのがわしの信念だ。おい、人の子。仕方がないから面倒を見てやる。わしの寛大さに泣いて感謝するがいい。そしてここに住むからにはあの方のことは主様と呼ぶのだぞ!」
私は烏の言葉に素直に頷いた。
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