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こうして私は主様の屋敷で暮らすようになった。
料理、掃除、屋敷の裏にあった畑の世話。不慣れなことばかりだからか、日は飛ぶように過ぎていく。
そして毎日、作った食事を主様に持って行く。そのたびに「前より肉が付きました。食べごろではないですか」と尋ねるのだが「まだ細い」と返されてしまう。
近頃は前の倍は食べられるようになり、外にもよく出ているので肌も焼けてきていると思うのだがまだ足りないらしい。
今日も食事を運んで行くと、いつもと違い襖が少し開いておりその姿が見えた。久々に見る姿に嬉しくなるが違和感に思わず首を傾げた。
「主様、なんだか少し……」
「なんだ」
言い淀んだ私に、怪訝そうな声が返る。だが私もどういっていいか分からない。でも最初に会った頃と少し違う気がする。まじまじと見ていると、ようやく何に引っかかったかが分かった。
「もしかしてお痩せになりましたか!?」
最初の頃より一回り小さく思える。私のいつにない大声に主様は「は?」と間抜けな声を上げた。
「どうしましょう!? 私がなかなか太れないばかりに、主様にひもじい思いをさせてしまっているのですね!? せめて腕の一本だけでも、食べてください!」
まだまだ主様を満足はさせられないだろうが、悠長なことはいっていられない。部屋に乗り込み右腕を口元近くに押し付けると、一歩後ろに下がってしまう。だからさらに近づけるのだが、嫌そうに前足で押し戻されてしまった。
「お前の腕などいらん」
「そんな!」
主様に拒絶され絶望する。こんなに頑なに拒否されるほど私はまずそうなのだろうか。頭上から大きなため息が聞こえ、思わず肩を竦ませる。
「俺は別に弱ってなどいない。お前の勘違いだ。それにいいか、お前は俺のものなのだ。それをお前自身であっても勝手に傷をつけることは許さない」
私はその言葉に驚いて化け物を見たが、その姿はもう部屋から消えてしまっていた。
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